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先日、薬剤師の友人に聞かれた質問。お主、自分も専門職の端くれなら僕に聞かずに自分で調べてくれ!調べてみたが、
回答としては「摂りすぎなければ大丈夫!過剰量だと死亡率が僅かに上がる可能性がある程度。でも摂り続けても明確なメリットが証明されているわけでもない。しかし、遺伝子タイプに依ってはメリットが大きい可能性もある」ってとこかな。因みに抗酸化作用は確かにある。
さて、出元の情報について考察していこう。こういう質問に対して、困るのはその質問者も質問者に伝えた人も出元の情報を知らないことだ。「これが出元かな?」という推測のもとに根拠を探すしかない。
そもそも、栄養素はチームをなして働くので単体として議論することには若干の抵抗があるし、人によって元から栄養の摂取量にバラツキがあるので統計で因果関係を論じるのは難しい気がする。一応、ビタミンEで死亡率について言及されている論文を沢山読んでみた。アホくさ。と思ったら意外に遺伝子タイプ別で効果が違うなんて、面白いネタが飛び出てきた。生化学理論や動物実験では、明らかにビタミンEは良さそうなのに、人間では微妙な結果が多い。もしかしたら、遺伝子が関係しているのか。
閑話休題
それではビタミンEと死亡や疾患のリスクを検討したものを紹介する。以下はオタクな方以外はすっ飛ばして下さい。
目次
ビタミンE摂取により総死亡が増える
ビタミンEサプリメントは心血管疾患の予防には効果がなく、400units/日以上の摂取で総死亡を増やす可能性がある。少なくとも1年以上ビタミンEサプリを継続しているランダム化比較試験のレビューであるが、ここでは総死亡が高用量400units/日以上のビタミンE群で10000人あたり39名(95%信頼区間3-74/10000人)と結論されている。因みに低用量では両者に死亡率の有意な差はなかった。つまり摂りすぎると死亡率がビミョーに上がるよと。これが元ネタなんだろうか。 Ann Intern Med 2005 Jan 4;142(1):37
ビタミンEには心血管疾患の治療または予防効果がない
ビタミンEは古くから心臓病への効果がうたわれているのだが、7つの大規模ランダム化比較試験のレビューにおいて心血管イベントの治療または予防において効果がないことが示された。トータルのサンプルサイズは81,788名。死亡率、心血管イベントによる死亡率、脳卒中による死亡率において有意な差がない。まあ別に死亡率は上がらんけどメリットもないってことね。 Lancet 2003 Jun 14;361(9374):2017
ビタミンCとEは低リスク群の心血管疾患をもつ患者において、心血管イベントまたは死亡率を減らさない
被験者がビタミンCやEを飲んでいたりいなかったりと少し雑な試験だが、心筋梗塞や脳卒中は減らさず。14641名の男性医師が対象で行われた。この研究には弱点があって、被験者が医療者である(即ち全体的に一般よりは健康意識高め?)ことと既にマルチビタミンを取っている被験者が多い。ビタミンEとCに有益性がないと断ずる根拠としては薄弱かな。 JAMA 2008 Nov 12;300(18):2123
ビタミンEはハイリスク群の女性患者において心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中、心血管関連死亡)を減らさない
プラセボvsビタミンC or ビタミンE or β-カロテンで比較した試験。ビタミンCで相対リスク1.02(95%CI, 0.92-1.13),ビタミンEは相対リスク0.94(95% CI, 0.85-1.04), βカロテンは相対リスク1.02(95% CI, 0.92-1.13)ビタミンE群で6%死亡が減っているが、いずれも有意な差ではない。また試験デザインの質が高いわけでもなく、この結果でどうこういうこともできない。 Arch Intern Med 2007 Aug 13-27;167(15):1610
ビタミンE摂取による前立腺癌予防効果はない。むしろ相対リスク1.13で僅かに増えるが、統計学的有意差は無い。セレニウムに関しても有意な差なし
SELECT試験というもので、ビタミンE and/or セレンで前立腺癌が予防できるのか検討されている。参考までに紹介。
ビタミンEサプリメントは2型糖尿病でハプトグロビン2-2ジェノタイプの患者においては心筋梗塞を減らす
55歳以上、1434名の2型糖尿病かつハプトグロビン2-2ジェノタイプの患者が、ビタミンE400unit/日vsプラセボにランダムに割付け比較した試験。一般的には、この遺伝子タイプは全人口の36%程度とされており、この研究でスクリーニングした時には49%の患者がこの遺伝子タイプとして組み入れられた。脱落はあるものの、Intention to treat解析で結果が評価されている。試験開始18ヶ月後の中間解析で大きな差がでた(ビタミンEが良かった)ために試験は中止された。 Arterioscler Thromb Vasc Biol 2008 Feb;28(2):341 心筋梗塞は減らすようだが、総死亡に有意差がない。どういうこっちゃ。しかし、凄いな。衝撃の試験だな、これは。今までの概念を覆しかねない。さあ、これをどう解釈するべきか。また今度考えまーす。
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