NMDA受容体阻害薬メマリー(メマンチン)と神経毒性

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NMDA受容体拮抗薬(メマリー)は認知症の比較的新しい薬だが、メーカー資料であまりにも良いことばかり書かれている印象がある。凡百のブログや薬情報まとめサイトはそれに沿った書き方しかされていないので、市民が普通に調べても正しい情報にアクセスしにくいのは残念なことだ。今日はそんな誤解溢れる認知症の薬の話。

メマリー(メマンチン)に関する要点

まずは、結論を箇条書きにしてまとめる。ポイントは次の6点。

1、脳の活動を活発化させるドパミンと記憶などに関わるアセチルコリンを増加させる。
2、動物実験結果より、脳神経の保護作用があるとメーカーは主張している
3、ヒトの臨床用量に近い用量で認知や情動に関係する神経細胞が壊死し、
  認知症を改善するとされる用量においても神経毒性がある
4、メマリー(メマンチン)と併用されるアリセプト(ドネペジル)は上記の神経毒性を増強する
5、中等度から高度認知症の患者で、24週間(約半年)の使用で症状改善効果が認められているとされるが、重要な評価指標で無効
6、臨床試験終了後の追跡調査では、服用者の半数は2年間以上の継続ができずに中断。その理由の約半数が有害事象。
  長期の有効性と安全性は確認されていない。
7、薬価が高い。効果及び副作用リスクを勘案すると経済合理性もない。1錠あたりの値段は次の通り。
  メマリー錠5mg:137.7円、メマリー錠10mg:246円、メマリー錠20mg:439.7円

小難しいと思う人向けに上のまとめを簡単めにかくと
メマリーは脳を興奮させる上に、神経細胞を壊死させるリスクがあり別の認知症の薬と併用するとなおのことよくない。加えて、飲んで半年以降は認知機能の改善効果が見られないどころか、周りの家族的には飲んでも飲まなくても変わらないと評価されていて長期の安全性も不明な上に異様に高い薬ということになる。

メーカー側がウリとしている特長

脳内の記憶に関わる神経細胞が過剰に傷つかないように守るとされるNMDA受容体は、記憶形成に関わる海馬にも存在する。
メーカーがウリとする特長は次の2点
1、重い認知症に向く
2、心理・行動異常など周辺症状の軽減が期待できる

アルツハイマー型認知症患者においては、神経の細胞外でグルタミン酸が多くなっている。それがNMDA受容体を刺激するので、常に過剰に活性化されている状態となり、持続的に細胞内へカルシウムイオンが流入する。

細胞内に過剰にカルシウムイオンが入ると神経細胞が死んでいく(アポトーシス)。メマンチンはこれを邪魔して、神経細胞を保護し、一方で生理的な情報伝達には悪影響を与えないというのがメーカー資料に書かれていることだ。

メーカーの主張を踏まえて実際はどうなのか

メーカーの主張は果たして、本当だろうか。僕がいくつかの文献をあさった感想だが、使う意義があるのだろうかということ。仮に身近に処方されている人がいるとしたらなどと考えてしまう。

脳組織が強く傷害された時には、大量のグルタミン酸が放出されNMDA受容体を興奮させ神経を壊死させる。ここでは、NMDA阻害剤は興奮毒性を抑制して神経を保護することが期待できる。問題なのは、NMDA受容体は興奮神経の受容体と考えられてきたが、実は抑制神経にもあることだ

NMDA受容体阻害剤は直接的には興奮性シナプスを抑制し、神経を保護する作用や痙攣を抑える作用があるが、GABA ニューロン上のNMDA受容体を阻害し、抑制性ニューロンを弱め、逆に興奮性ニューロンを活性化させドパミンやアセチルコリン濃度を高めるため、 痙攣や幻覚と招く統合失調症が、NMDA受容体の機能低下によるとする研究が多数ある(参考文献3〜5)ことを考えるとなかなか恐い薬だ。

アリセプト(ドネペジル)にメマリー(メマンチン)を上乗せすると効果があがるのか?

しばしば、アリセプト(ドネペジル)にメマリー(メマンチン)を上乗せすると効果があるのではないかということで併用されるが、そもそもその元ネタらしき文献でも臨床的な有用性があるとは結論されておらず別の研究でもドネペジル単独とドネペジル+メマンチン群で差はないとされている。 両者の併用において神経毒性が増強すると動物実験の結果もあり、安易に併用するのは望ましくない。いや、率直に言おう。高いお金をかけて無効であるばかりか有害な治療をするのはやめた方が良いと思う。奏功していれば良いが、そうでないケースでは無理に続けても仕方ない。

お年寄りは服用をはじめると、それが良くても悪くても医師が処方すると続けてしまうものだ。だからこそ、処方する側は正確な情報をもって判断をすることが望まれる。

※2016/12/3追記ー豆知識として
メマリーの構造式はパーキンソン病に使われるシンメトレル(アマンタジン塩酸塩)とほぼ同じ。アマンタジンにメチル基が2個ついただけ。シンメトレル50mgの薬価は25.8円、ジェネリックに至っては5.8円。メマリーは随分高い。価格差の要因は製薬技術の難易度とは全く別のところにありそうだ。

【参考文献】
1、日本神経学会、認知症疾患治療ガイドライン2010
2、メマンチン承認関連情報(審査報告書、申請資料概要(SBA)、添付文書、インタビューフォーム)
3、J Psychopharmacol. 2014 Apr;28(4):287-302.
4、J Neurochem. 2009 Nov;111(4):891-900.
5、BMJ Open 2012;2(3):online
6、Neuropharmacology. 2012 ar;62(3):1574-83
7、Donepezil and Memantine for Moderate-to-Severe Alzheimer’s Disease
Robert Howard et. al.
N Engl J Med 2012; 366:893-903March 8, 2012
8、CreeleyCE, Wozniak DF, Nardi A, Farber NB, Olney JW.
Donepezil markedly potentiates memantine neurotoxicity in the adult rat brain.
Neurobiol Aging. 2008 Feb;29(2):153-.

9、Prescrire Int. 2012 Jun;21(128):150.
Drugs for Alzheimer’s disease: best avoided. No therapeutic advantage.

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