胃を全摘しているのに、胃酸を抑える薬を飲んでいた人の話

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始めてきた方は「このブログを通じて医療従事者と患者さんに伝えたい想い」をお読みください。

 

先日、兄の結婚式に出席した時のこと。僕は、胃を全摘している兄の知人の隣の席だった。

普段から良く食べるキャラが確立しているため、その方が食べきれない分を食べてねという意図の下の席次だ。料理はとても上品で美味しかった。だが、そういう料理にありがちなことだが量は少なめだった。お隣の料理はありがたく僕が7割型頂いた。やはり、胃を全摘していると、固形物や刺激物の摂取で気持ち悪くなるということだった。

締めのお粥はご自身で食べていたが、やっぱりこれだけじゃちょっと寂しいよなと漏らしていた。

そうした病態になると、ふと今まで消化に要していたエネルギーの大きさに気付くものである。
風邪で寝込んだ時に実感されるかたもいるかもしれない。

特に固形物の消化に要するエネルギーは水泳やマラソンなどの比ではなく、その摂り過ぎは慢性的なエネルギー不足を招く。午前中は特に消化の良い物を中心にするのが日中の活動効率をあげるのに重要なポイントだ。知人の経営者で昼食を食べると仕事にエネルギーを注げないから、いつもほとんど食べていないという方もいる。

隣に座られていた方は僕が薬剤師と知っていたので、とある質問をしてきた。

俺って胃を全摘しているのに医者は胃酸を抑える薬を処方してくるんだよ。なんでだろうな?

以前だったら、「なんででしょうね。よく分からないです。」くらいしか言えなかったかもしれない。
下手すると「何か勘違いされているんですかね?そのお医者さんは。」くらい言っていたかもしれない。

その時はたまたま、たまたま以前日経DIで読んだ記事を思い出した。ほぼ、その受け売りで次のように会話が展開した。

「確かに逆流性食道炎というと、胃酸が上がってきて食道を荒らすというイメージですよね。でも、胃を切除していて胃酸は上がってこなくても、胃の下にある十二指腸から膵液や胆汁などがこみ上げて食道が荒れることはあるそうです。飲まれている薬は、本来胃酸を抑えるためのものなんですが、胆汁の分泌も減らす働きがあると言われています。

一般的には飲み始めて1週間程度で胸焼けが和らぎ、1~2ヶ月で改善することが多いです。完全に治るまでは時間を要するか、もしくはある程度付き合っていかなければならない症状なのかもしれませんが。あとは既に医師に言われているかもしれませんが、消化に悪いものは控える、食事の後2~3時間は横にならない、前かがみにならず姿勢を維持する、ベルトなどで締め付けないなどそういう生活習慣も大切なんですよね。もっともお医者さんがどこまで意図して処方されているかは僕には断定できませんが、直接聞いてみても良いと思います。漫然と続けるのもなんですし。」

「なるほどなぁ」と納得されていたが、ふと振り返ると「医師にそういう説明を受けていないのかなぁ」と疑問に思うのであった。

後日、調べたところパリエット(ラベプラゾール)というPPI(プロトンポンプ阻害薬)が膵液や胆汁を抑制することで、それらが原因で起こるアルカリ性食道炎(胃酸で起こる酸性の食道炎とは違う)が胃全摘後の逆流性食道炎の症例に用いられた症例報告があった。

内容は、
•胃全摘後の逆流性食道炎患者4人にラベプラゾールナトリウム(パリエット)を投与して全例で改善
•胃全摘後の逆流性食道炎患者2人にラベプラゾールと投与したところ、自覚症状が約1週間で、内視鏡所見も5~7週間で著しく改善

といったもの。
因みに粘膜保護薬やH2ブロッカーなど弱めの胃酸分泌抑制薬は同様の作用は期待できず無効のようである。

まだまだ、症例が少なく一般的に勧められることなのかは何とも言えないが、そうした治療が選択肢としてあり得ると知っておくだけで違うと思う。あとは、PPIの害やコスト、患者の症状や価値観などを勘案して使うか使わないか決めていくのだろう。使うなら、多くの場合やめ時/やめ方も見据えていくのが大切となる。

【参考文献】
1,日経DI 2015年9月号 p43-44
2,Hepatogastroenterology. 2011 Sep-Oct;58(110-111):1574-9.
Effect of PPI (rabeprazole) on reflux esophagitis after total gastrectomy.
Imamoto H1, Hashimoto N, Shiozaki H.
3,World J Gastrointest Pathophysiol. 2015 Feb 15;6(1):23-8.
Rabeprazole is effective for bile reflux oesophagitis after total gastrectomy in a rat model.
Hashimoto N1.

 

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