PPI(胃酸分泌抑制薬)で認知症発症が増えるのか

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PPI(胃酸分泌抑制薬)で認知症リスクが上がる可能性があるとする研究結果が最近発表された。胃薬で認知症のリスクが上がるなど、想像もしたことがなかった。ほんまやっか。その発表を受けてやっべーな、と慌てふためいて情報をシェアしまくったりして、服用者に不安の嵐を拡大するのはなおのこと良くない。本当にそうなのか、関連について検討することとする。

認知症の患者数と経済的なインパクト

この話は、医療業界でかなり注目を浴びている。認知症の有病率は世界的にも増加傾向にあり、現時点で認知症と診断されている患者は3500万人ほどいる。それが2040年までに2.5倍ほどに増えるのではないかという見込みがある。 もちろん、経済的にも大きなインパクトがある。2010年は世界中を合わせると6000億ドルのコストが認知症に対して注ぎ込まれているようだ。介護者の時間や労働も含めると、それ以上の影響かもしれない。

胃酸分泌抑制薬が認知症の原因になりうるのか

果たして、胃薬が認知症の原因になりうるのだろうか。
その話題となっている2015年にJAMA Neurology誌に掲載されたレポートでは、PPIの使用と認知症に弱い相関があるのではないかと書かれている。
アルツハイマーの原因物質と考えられているのは、βアミロイドたんぱくであるが、以前からPPIがマウスの脳内βアミロイドレベルを上昇させることが示唆されてはいた。

上記のレポートは2015年に報告されていた、これより小規模のcohort研究のフォローアップ結果に基づいており、PPI使用と認知症発症のハザード比はおよそ1.4とほぼ同様の結果を示唆している。 200,000人以上を組み入れた、最近の研究ではおよそ29,000人が11年間のフォローアップ期間の中で認知症の診断を受けた。

ここでいう認知症とは広義の意味での認知症で、その内アルツハイマー型の患者は2.7%だけだった。
PPIがβアミロイドの蓄積に寄与しうるという仮説は、少なくともマウスではその可能性が示されているように、PPIが脳内にタンパク質を蓄積させる原因となるβセクレターゼとγセクレターゼを変異させるのではないかという理論による。

βセクレターゼとγセレクターゼという2つの酵素は、アミロイド前駆体タンパク質を切断し、老人斑を構成するアミロイドベーターペプチド(Aβ)をつくる原因と考えられている。この2つの酵素阻害をターゲットとした薬の開発は多くの企業が試みているところである。
また、アルツハイマーの類型認知症においてもアミロイドプラークが原因物質なのではないかという説がある。上記の試験でアルツハイマーとされた患者は、全認知症患者の2.7%であった。アミロイドの蓄積にPPIが影響を与えるのではないかという説と、このパーセンテージを踏まえて何が言えるのだろう。

話題となった研究の問題点

PPIと認知症の関連を示す調整ハザード比は男性1.52、女性1.42と男女間で、大きな差はなかった。
もちろん全ての交絡因子とまではいかないが、いくつかの変数ー例えば、年齢、性別、多剤併用、脳卒中の既往、うつ、虚血性心疾患、糖尿病などーは考慮して調整されている。
しかしながら、認知症における重要なリスクファクターであるアルコール摂取、認知症の家族歴及び高血圧については調整されていない。
これらは認知症のよく知られたリスクファクターでありながら、なぜか解析に含まれていない。
従って、可能性のある多くのリスクファクターを考慮していないことになり、PPI使用と認知症発症の相関を正確に捉えられていない懸念がある。

結果を受けて、臨床においてはどうすれば良いのか

データをどうこう言おうが、結局のところ臨床においてどうすべきかを考えることが大切だ。ではどうすれば良いのだろう。そもそも、認知症は診断をそう簡単につけられるものではなく研究内で認知症とされている人が、本当の認知症と確定的であるとは言い切れない。

ただの認知機能障害かもしれない。精神運動と認知機能障害の評価がどこまで出来ているのかという問題もある。 因みに、PPIよりも弱めの胃酸分泌抑制薬であるH2ブロッカーでも同様の研究が試みられており、オッズ比でH2ブロッカー使用者は非使用者に対して2.4倍認知機能障害を起こすことが示唆されている。

H2ブロッカーは認知症とは別の精神症状である「せん妄」リスクがある。一方で、H2ブロッカーと総認知症とアルツハイマー病そのものの発症に関連はなしとする説もある。ただ、H2ブロッカー(ガスターなど)は市販でも購入できる分、そのリスクは一般に認知されて良いように思う。

また、用量に依存してリスクが上がるのかどうか、明確なプロファイルもない。
仮にそうしたことを調べるのであれば、高用量または長期間の服用による影響をみなければならない。
多くのキーとなるリスクファクターが統計的に調整されていないため大きなバイアスの排除はできていない。
また、認知症の診断を下す質の高い評価方法があるわけではないが、機械的に評価する有効な装置はある。いずれにしても当該研究において、そうしたものは使用されていないようである。

•患者に服用中のPPIと認知症の関連について聞かれたら

この研究が因果関係を述べるのに十分な根拠を与えてくれているわけではないが、本当にその患者にPPIが必要なのかを検討しなおす良い機会なのかもしれない。
とはいえ、NSAIDs(ロキソニンやボルタレンなどの非ステロイド性消炎鎮痛薬)やピロリ菌による消化管出血や胃潰瘍の予防、胃酸逆流症状の改善に対するベネフィットを得られている患者でPPIをいきなり止めろというのは無理がある。
しかし、患者がこの薬を必要なさそうという段階になれば、こうした可能性の話をしても良いとは思う。
このデータにはいろいろと突っ込みどころがあるので、現時点では治療が必要な患者が服用をやめるほどの根拠とは言いがたい。ましてや、認知症になるのが心配だからという理由で治療方針を決めるのは早計であろう。

【参考文献】
1,Lancet. 2005;366:2112-2117. Alzheimer’s Disease International.
2,Nat Rev Neurol. 2011 Mar;7(3):137-52. Epidemiology of Alzheimer disease.
3,Alzheimers Dement. 2013;9:1-11.The worldwide economic impact of dementia 2010.
4,JAMA Neurol. 2015 Feb 15.Association of proton pump inhibitors with risk of dementia
5,Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci. 2015;265:419-428. Risk of dementia in elderly patients with the use of proton pump inhibitors.
6,PLoS One. 2013;8:e58837.The proton-pump inhibitor lansoprazole enhances amyloid beta production.
7,J Am Geriatr Soc. 2007;55:1248-1253. The association between cognition and histamine-2 receptor antagonists in African Americans.
8,J Am Geriatr Soc. 2011;59:251-257. Histamine-2 receptor antagonist use and incident dementia in an older cohort.

 

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