ジャヌビア(シタグリプチン)の無罪証明が示したこと

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前回、DPP-4阻害薬において心不全リスクが取りざたされていることを書いた。これは、主に米国や欧州の規制当局で問題視されていた。そこで行われたのがTECOS試験。心血管イベントの予防効果など有効性の証明という栄光はもはや期待していないから、せめて心不全を増やさないことを示そうという主旨の研究だ。参加国38カ国、被験者数14724名、平均観察期間3年と実に壮大な臨床試験である。

この試験でついに、シタグリプチンを既存の血糖降下剤orインスリンに加えても、プラセボに対して心不全や死亡率を増やさないということが示された。試験に組み入れられたのは、HbA1c6.5-8%で、1~2個の経口血糖降下剤(メトホルミン、ピオグリタゾンまたはスルホニルウレア)もしくはインスリンを使用している患者。重度の腎機能低下患者は除外。それらの患者の既存薬にシタグリプチン100mg/日(腎機能低下患者は50mg/日)またはプラセボの上乗せを行い比較した。

主要結果は次の通り。
重篤低血糖はシタグリプチン2.2%vsプラセボ1.9%(有意差なし)
急性膵炎はシタグリプチン0.32%vs0.12%(p=0.07)
膵臓がんリスクまたは心不全による入院リスクに有意な差なし。
TECOS trial (N Engl J Med 2015 Jul 16;373(3):232)

この試験結果を見て、シタグリプチンは心不全や膵臓がんリスクを増やさないのだから使ってよいのだと捉える人がいたら製薬会社の思惑通り。まあ、偽薬に対して劣らないことを示しても意味がないという向きもあろうが。この試験によって示されたことは、HbA1cをコントロールすることが、必ずしも糖尿病の合併症である血管障害、心血管イベントを抑制しないということだ。

製造販売会社であるMSDはこの結果をもってジャヌビアによる治療は心血管イベント(心血管死、心筋梗塞、脳卒中、入院を要する不安定狭心症)についてプラセボの治療に劣らなかったと発表した。MSDはこの試験結果をオンラインで無料公開し、営業に配らせ、医薬系の雑誌の背表紙に広告を入れまくった。一時期「TECOSにおいて、ジャヌビアの心血管安全性が検討されました」という広告をどれだけみたことか。

こんな感じ。
TECOS広告

現時点で、心血管イベントと死亡率を減少させることが証明されているのはメトホルミンとエンパグリフロジンのみであり、
このジャヌビア錠50mgは1錠136.5円、メトホルミン500mg1錠16.7円。1日2錠でも33.4円。その差は4倍の開きがある。

(※エンパグリフロジン(ジャディアンス)は10mgと25mgの複合アウトカムで有意差が出ただけで、10mg、25mg各単独ではプラセボと有意差が出ていないため厳密には証明されているとは言えないが、確かに心血管イベントと総死亡を減らす傾向にはある。なおジャディアンス10mgの薬価は208.4円。また、25mgの薬価は356円。このジャディアンスのempa-reg outcome試験では10mgと25mgの間に効果の差を認めない。現時点で高用量を使う必然性はない。)

いくら中医協や厚労省で医療費を削減する議論をしても、こんなところでお金は流れていく。垂れ流しされたお金は製薬メーカーに入り、有用な薬を開発する財源にしたり、あるいはそれで儲かった人が有意義に使うなら何となく気持ちは慰められるが、効かない薬を無理矢理売る為の販管費にしてなにになるのだろう。何が無駄で何が無駄じゃないかなんて議論は、キリがないのでしないけれど。

血糖をやや下げて、脂質、体重、血圧といった心血管系イベントの指標には影響がなく、入院や死亡率も減らさない。そんな臨床的有用性の低い薬が売上高のトップを走っている経口糖尿病治療薬のマーケットは不思議という他ない。こんな薬が世界中で年間60億$以上売れている、そのマーケティングの凄さにただただ愕然とする。糖尿病の治療薬で本当に有用性が示されているものは僅か数個の薬剤しかないのに。

そもそもガイドラインで第一選択でもないDPP-4阻害薬がなぜこうも売れるのだろう。毒にも薬にもならないモノに高い値段がついて売れる。これは日本に限った話ではなく、国際的にまかり通っている。この現状は、多数派の医療プロフェッショナルがそれで良しとしていることを意味する。

現時点で分かる情報からは、ジャヌビアを処方し続けることは、血糖を下げるという代用の目的を満たすためだけに、何ら疾患の予防効果のないものを投与して副作用リスクにさらすだけという風に思える。倫理的な問題はないのだろうか。

これが血圧やコレステロールの薬なら?数値を少し下げるだけで脳梗塞や心筋梗塞、脳卒中などの心血管系イベントを減らさない薬を飲むだろうか。心血管系イベントを増やさないことが示されようが、低血糖、過敏症、腎機能障害、膵炎など因果関係がはっきりしているジャヌビアの副作用はいくらでもある。

TECOS試験の表では急性膵炎がプラセボ12人、ジャヌビア23人発生しておりハザード比は1.93。ジャヌビアの方が約2倍のリスク。だが、95%信頼区間が0.96-3.88で1をまたいだため有意差がないと論文内でコメントしている。しかし、このサンプル数(14724名)では統計学的に有意差が出なかったが、もしサンプル数がこれより少し多ければ明らかに有意となる。市販後だと世界的にはこの被験者数のざっと100倍はジャヌビアを服用するだろう。これは何千人という人がジャヌビアに起因する急性膵炎を起こしうる可能性を意味する。

武田のアクトスは膀胱癌リスクによって巨額の引当金を支払い赤字を出した。MSDが膵炎で同じことにならないとは限らない。因みに武田のアクトスによる膀胱癌のリスクはジャヌビアの膵炎リスクよりも遥かに低い。

膵炎は恐い。炎症を起こした膵臓からは、他の臓器を障害する物質が多量に出され、血液中に流れ込むことがある。最悪、心臓、肺、肝臓、腎臓、消化器官などに障害が及んで機能しなくなることがある。腹痛、特に上腹部の激しい痛みが初期症状として出やすい。軽い痛みから耐え難い激痛までさまざまで、急激に来る場合と徐々に悪化する場合がある。痛みは持続的で、痛む箇所もみぞおちから下腹部まで広い範囲に及んだり、痛みの範囲が特定出来ない場合もある。また、吐き気や嘔吐、食欲不振や膨満感を伴う場合もある。決して頻度が多いものではないが、初期症状をおさえて最悪の事態になることは避けたいものである。

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コメント

    • あらつき
    • 2016年 6月 25日

    私の母はジャヌビア投与2ヵ月後に、重篤低血糖を起こしました。
    低血糖は起こりづらいと言われていたので、心底裏切られた気持ちでいっぱいです。
    他の薬品は高血圧向けのものも投与していたので、他の薬剤からの影響も否めませんが、
    担ぎ込まれた病院で、低血糖に対する処置も遅く、お薬手帳があるのに、まともに読み取れず誤った診断をしていました。
    母は意識朦朧しており、説明がうまくできなかったそうです。
    今でこそ、普通に生活をするほど回復しましたが、一度 重篤低血糖を経験したので心血管に何らかの影響があったことは確実なので
    予後が不安でなりません。泣きたいような毎日です。

      • zakiyama
      • 2016年 6月 26日

      背景が分からないので一般的に言えるところをコメント致します。低血糖が起こりづらいというのはその通りです。ただし、他の血糖降下剤と併用した場合にはその限りではありません。これはある程度知識のある医療従事者であれば知っていることです。お母様がおいくつかは分かりませんが、近年のガイドラインではある程度高齢の方では(低血糖リスクも怖いので)血糖値を厳格に下げすぎない方が予後が良いとされております。今回のエピソードを踏まえると「下げすぎない」意識も大切になるかと思います。なお、低血糖で意識が朦朧としても体内のブドウ糖が完全になくなったわけではなく、ほとんどの場合細胞自体にもブドウ糖が残っています。従って即心血管系への後遺症ということにはなることは一般的には少ないかと思います(ただし、昏睡時間が長過ぎたりすると事情が変わる可能性はあります)。

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