記憶障害を起こしうる薬剤リスト

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始めてきた方は「このブログを通じて医療従事者と患者さんに伝えたい想い」をお読みください。

物忘れが多くなった。最近、記憶が飛んでいる時がある。飲んでいる薬は関係していないだろうか。こんな疑問をもたれる方はとても多い。そして、医師に聞けば言下に薬との関連を否定されたなんていう人も良くいる。薬で記憶障害が起こる例は少なくないが因果関係まで証明されているかというと微妙なモノがほとんどなので、やむを得ないことなのかもしれない。

アルコール、薬物中毒、タバコの吸い過ぎ、頭部の外傷、脳卒中、睡眠不足、過度のストレス、ビタミンB12の欠乏、アルツハイマー型認知症やうつ病そういった生活習慣や病態から記憶障害を起こしうることは良く知られている。

しかしながら、普段から当たり前のように継続している薬にも記憶障害を起こすリスクがあるということに思いが至る人はあまりいない。

薬を扱っていて、良く聞かれることとして「最近◯◯な症状があるのだけど、これって薬が原因ですか?」という疑問がある。特に多剤併用している人などでは、その「◯◯な症状」を起こしうる薬剤を網羅的に知っているかどうかで事件が迷宮入りするか否か左右される場合がある。こういう疑問にはある程度体系的に薬の情報を把握していないと答えられない。

今回は、記憶障害や認知機能の低下を起こしうる薬剤をまとめて紹介する。深く知る必要はないが、可能性として頭の片隅に入れておくだけでいざという時に適切に対処できる。

 

抗不安薬(ベンゾジアゼピン系薬剤)

〈例〉アルプラゾラム(ソラナックス、コンスタン)、クロナゼパム(リーゼ)、ジアゼパム(セルシン)、フルラセパム(ダルメート)、ロラゼパム(ワイパックス)、ミダゾラム、クアゼパム(ドラール)、トリアゾラム(ハルシオン)など

ベンゾジアゼピン系薬剤は不安症状、興奮、筋痙攣やてんかん発作を抑える目的で多用される。また、鎮静作用があるのでうつを伴う不眠や不安症状によく使われる。脳の活動ひいては記憶に関わる海馬の活動を低下させるので、短期〜長期の記憶が飛ぶことがある

前向性健忘、つまり服用〜入眠まで、入眠後起こされた際、覚醒後のある一定期間 の出来事が飛ぶのが特徴的だ。実際、こうした理由から手術中の記憶が残らないことはかえって好都合とされ、麻酔の前投薬として用いられていた経緯もある。麻酔に上乗せして使われた場合、患者はほとんど不快な手術経過を覚えていない。ミダゾラムはそうした作用に優れ、特に手術用に使われる場合がおおい。
また、長期記憶障害として以前覚えていたことが思い出せないといった症状が知られる。

参考:大学病院ネットワークhttp://www.umin.ac.jp/fukusayou/adr114d.htm
また、以前”ベンゾジアゼピン系薬剤と認知症リスクは関連があるか“でも少し触れた。

 

コレステロール降下剤(スタチン)

〈例〉アトルバスタチン(リピトール)、フルバスタチン(ローコール)、プラバスタチン(メバロチン)、ロスバスタチン(クレストール)、シンバスタチン(リポバス)など

“Lipitor Thief of Memory”(リピトール 記憶の盗人)という書籍(未邦訳)に書かれていたエピソードを紹介する。元NASAの宇宙飛行士で軍医でもあった著者のデュアン•グレーブリン氏は上記の自著で次のように述べている。

1999年のある日、日課にしている朝の散歩から戻ったが、どこにいったか全く思い出せなかった。妻の顔を忘れ他人行儀な挨拶をした。僕は記憶を失っていた。6時間後に病院で記憶を取り戻したが、なぜ記憶喪失を起こしたか考えていた。そこで最近リピトールを飲みはじめたことを思い出した。服用を中止したところ記憶喪失には二度とならなかった。しかし、主治医は、それがリピトールの副作用とは信じなかった。それでは、ということで私は再度服用を開始した。その8週間後記憶喪失が再発した。

体内のコレステロールのおよそ20%は脳内にある。コレステロールは脳内で情報が電気シグナルとして神経細胞の軸索を伝わる際に、軸索を包み込み漏電を防ぐことで情報の伝達速度を維持する。実際に記憶と学習の能力をコレステロールが左右するという研究もある。ここでの紹介は割愛するが、スタチンが認知機能や学習能力の低下を引き起こすことを示唆する研究はいくつかある。また、2012年にはFDAが、製薬会社に記憶障害の可能性が起こる旨の警告を表示するように勧告した。

スタチン剤の副作用まとめ“ でも簡単に紹介している。

抗けいれん薬

〈例〉アセタゾラミド(ダイアモックス)、カルバマゼピン(テグレトール)、ガバペンチン(ガバペン)、ラモトリギン(ラミクタール)、プレガバリン(リリカ)、トピラマート(トピナ)、パルプロ産ナトリウム(デパケン、セレニカ)、ゾニサミド(エクセグラン)

基本的にてんかん発作を抑える目的で使われるが、神経性疼痛、双極性障害、気分障害や躁病に対しても処方されるものもある。抗けいれん薬は中枢神経系のシグナル伝達を阻害することによって発作を抑えるとされている。中枢神経系のシグナルを抑制する薬剤は基本的に記憶障害を起こす可能性も同時に孕んでいる。

抗うつ薬(三環系抗うつ薬)

〈例〉アミトリプチリン、クロミプラミン(アナフラニール)、デシプラミン、イミプラミン(トフラニール)など

うつ病、不安障害、摂食障害、強迫性障害、慢性疼痛の他、生理痛やほてりなどのいくつかのホルモンバランスの変化で起こる症状に対しても処方される。三環系抗うつ薬を服用している大人の約35%はやや記憶障害を起こし、54%が集中力低下を訴えるという。脳内でもキーとなる神経伝達物質であるセロトニン及びノルアドレナリンの作用を遮断することから記憶の問題を引き起こすのではないかと考えられている。問題なら、非薬物療法にするとかSSRI/SNRIなどにするのも1つの手かもしれない。ただし、こと抗うつ効果に関してはプラセボと有意差が出ていない(参照:“抗うつ薬は本当に効果があるのか”)。

麻薬性鎮痛剤

〈例〉フェンタニル(フェントス、デュロテップ、ワンデュロ)、ヒドロコドン、モルヒネ、オキシコドン(オキシコンチン)など

   テープ、パッチ、錠剤、注射剤など様々な剤形がある。

オピオイド系鎮痛薬とも呼ばれる。リウマチなどから引き起こされる中程度から重度の慢性疼痛や癌性疼痛を緩和する目的などで使われる。

中枢神経系内の痛みの信号の流れを抑制する方向に働く。この反応に関わる神経伝達物質もまた、認知機能に関わる。従って、麻薬性鎮痛薬の使用が長期及び短期の記憶に影響することがある。特にある程度長い期間使っている場合は注意が必要だ。

代替案として、NSAIDs(これはこれで消化管出血などを起こしやすいが)、トラマドール(トラマール)、アセトアミノフェン(カロナール)などは考えうるが、麻薬性鎮痛薬に代えるにはかなり高用量が求められるし代わりとなるほどの効果は得られないことも多い。

抗パーキンソン病薬(ドパミンアゴニスト)

〈例〉プラミペキソール(ミラペックス)、ロピニロール(レキップ)、ブロモクリプチン(パーロデル)

パーキンソン病の治療、時に下垂体腫瘍やレストレスレッグス症候群に使われることもある。

これらの薬はモチベーション、喜び、運動制御、学習と記憶などの脳機能に関わるドパミンのシグナル伝達経路を活性化する。結果、主要な副作用として記憶喪失、混乱、妄想、幻覚、めまい及び過食やギャンブルなどの衝動的な行動をとるなどの副作用が知られている。問題なら処方変更を検討したほうが良い。

高血圧薬(β遮断薬)

〈例〉アテノロール(テノーミン)、カルベジロール(アーチスト)、メトプロロール(ロプレソール)、プロプラノロール(インデラル)、ソタロール(ソタコール)、チモロール(チモプトール)。語尾が “-olol.”で終わるもの。

β遮断薬は心拍数や血圧を減らし心臓の負担を減らす。一般的には、高血圧、うっ血性心不全、不整脈などに用いられる。また、胸の痛み(狭心症)、片頭痛、振戦及び点眼剤では特定のタイプの緑内障を治療するのにも使われることがある。

β遮断薬は脳内のキーとなる神経伝達物質(ノルアドレナリンとアドレナリンを含む)の働きを阻害することで、記憶障害を引き起こす可能性があると考えられている。

代替案としては、カルシウム拮抗剤など。緑内障目的の使用なら炭酸脱水素酵素阻害薬に切り替えることもある。ただし、血管に十分な圧がかからず脳への血流が制限されるとふらつきや認知機能への影響が出る場合もあり注意が必要である。

睡眠補助剤(非ベンゾジアゼピン系鎮静催眠薬)

〈例〉エスゾピクロン(ルネスタ)、ゾルピデム(マイスリー)、ゾピクロン(アモバン)

その頭文字(Zolpidem、Zopiclone)から”Z drugs”と呼ばれることもある。不眠症状、睡眠障害や軽度の不安症状に対して処方される。分子的にはベンゾジアゼピン系と区別されるが、脳内での作用経路や抑制する神経伝達物質はかなり似通っており、似たような副作用や離脱症状を呈する。

“Z drug”は記憶喪失を起こす可能性もあり、時に危険な奇異行動(例えば、料理や運転を無意識のうちにするなど)を伴う場合がある。
しかも、その行為をしていた時の記憶が飛んでいる。

問題なら、不眠や不安には、代替的な薬もしくはそれ以外の選択肢を使える場合もある。睡眠リズムを整えるメラトニンやラメルテオン(ロゼレム)、スボレキサント(ベルソムラ)など。もちろん、離脱症状を起こさない為にも急に減量したり中止する前にプロに相談しておいた方が良い。正しい減量の仕方がある。

排尿障害治療薬(抗コリン薬)

〈例〉オキシブチニン(ポラキス)、ソリフェナシン(ベシケア)、プロピベリン(バップフォー)、イミダフェナシン(ステーブラ、ウリトス)など

切迫性尿失禁でトイレに間に合わないとか、過活動膀胱の症状を呈する人使われる。これらはアセチルコリンの働きを遮断する。アセチルコリンは体内の機能のあらゆる部分を媒介する神経伝達物質だ。膀胱においては、抗コリン薬は尿の出を制御する筋肉の不随意運動を抑制するが、脳においては記憶と学習に関わる部分の活性を阻害する。長期間の服用や他の抗コリン薬と併用された場合にリスクがあがる。

2006年に行われたオキシブチニンに関する研究では、オキシブチニン服用群に顕著な認知機能の低下があったとし、その研究者の言葉を借りれば、「67歳から77歳へ10歳年をとったかのような差」であったということである(参照:Eur Urol. 2006 Aug;50(2):317-26)。

因みに高齢者では特に、便秘(これが時に排尿障害を起こす)、視力障害、めまい、不安、抑うつ、幻覚など抗コリン薬の副作用が出やすい。

第一世代抗ヒスタミン薬

〈例〉クロルフェニラミン(ポララミン)、クレマスチン(タベジール)、ジフェンヒドラミン(レスタミンコーワ)、プロメタジン(ピレチア、ヒベルナ)など

これらの薬は、鼻水や痒みなどのアレルギー症状を軽減するために使われる。ものによっては乗り物酔い、悪心、嘔吐、およびめまいを予防するためであったり、不安や不眠症を治療するために使われる。

これらも中枢抑制作用や抗コリン作用があるので記憶障害を起こしうる。代替案としては第二世代の抗ヒスタミン剤などより忍容性のある薬剤に切替えることなど。

ニューキノロン系抗生物質

〈例〉レボフロキサシン(クラビット)など
稀なケースだが、精神変調や意識障害を起こす可能性が示唆されている

胃酸分泌抑制薬(PPIやH2ブロッカー)

〈例〉オメプラゾール(オメプラール)、エソメプラゾール(ネキシウム)、ランソプラゾール(タケプロン)、ファモチジン(ガスター)、ラニチジン(ザンタック)、シメチジン(タガメット)など

せん妄や認知機能低下のリスクが示唆されている。”PPI(胃酸分泌抑制薬)で認知症発症が増えるのか“にてそのリスクを紹介している。

その他

他に記憶喪失を起こす可能性がある薬剤として知られているものをいくつか列挙する。

スコポラミン、アトロピン、フェニトイン、キニジン、ナプロキセン、ステロイド、インターフェロン、インスリン、メチルドパ、リチウム、バルビツール酸 フェノバルビタール、化学療法薬など

市販薬でも抗コリン作用を有する睡眠導入剤や、抗アレルギー剤、胃酸分泌抑制薬が多く売られている。注意が必要だ。

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コメント

    • myutarin
    • 2016年 10月 12日

    はじめまして
    自分のボケさ加減に半べそ状態でネットサーフィンをしていてこちらにたどり着きました。
    薬の副作用怖いですね。
    今の服用薬

    ニトラゼパム、エチゾラム、リリカ、ネキシウム、モルヒネ、リュープリン

    記憶は飛ぶし、日にちは認識できないし、行動はチグハグで今後更にひどくなったら生活できなくならないか怖いです。
    とても参考になりました。

      • zakiyama
      • 2016年 10月 12日

      はじめまして。コメントありがとうございます。確かに認知機能へ影響を及ぼしうる処方薬を多数お飲みですね。しかしながら、内容からすると簡単にやめられない事情もあるものと拝察します。何かのご参考になれば幸いです。お大事になさって下さい。

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