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ステロイドと白色ワセリンやヒルドイドソフトなどの保湿剤を混合して、ステロイドを希釈する処方がある。これは、嵩ましや浸透性改善という意味であれば分かるが、希釈によって効果や副作用を薄めることを狙うなら少し思いとどまってほしい。
希釈すると効果•副作用が減るのではないか思われがちだが、そうではないからだ。実際には皮膚外用剤は皮膚への移行を高めるために、薬物を最大限に基剤中に溶かしている飽和状態にあるものが多く更に薬物の大部分が結晶として残っているのでかなり希釈しても効果や副作用が減弱しないことが大半である。
要は水に大量の砂糖を入れてかき混ぜ、それでも溶け残った状態と一緒で、そこに水を多少加えても溶け残った砂糖が溶けるため濃度が一定になる。
主なステロイド外用剤(軟膏)の基剤に溶けている薬物の割合を下表に示す。
つまり、(理屈上は)アンテベートを4~16倍程度で希釈しても効果は減弱せず、デルモベートに至っては50倍程度に希釈しても(理屈上は)同等の効果を維持する。
以下は皮膚外用剤で有名な製薬メーカー、マルホの「基礎からわかる外用剤」にあった図である。
上から、商品名でいうとアンテベート、リンデロンDP、リンデロンVであるが実際に単純塗布しても4〜16倍程度の希釈では効果の減弱がほとんどないことが示されている。実際には4倍以上に希釈するような処方などまずないのだが。
良くステロイド軟膏をワセリンなどで2倍、3倍に希釈するような処方があるが、それはかさ増しの意味しかなく効果は変わらない。
以前、この勘違いにより余計に患者さんをお待たせしてしまった事例を紹介しよう。
普段次のように1:1の比で混合指示を出すクリニックから
アンテベート軟膏 25g
ヒルドイドソフト軟膏 25g
混合する
いつもとは違って、
アンテベート軟膏 25g
ヒルドイドソフト軟膏 50g
混合する
と1:2の混合比で処方が出たときのこと。
そこで、なんとなく普段見かけないから(実際には後者の処方など良くある)と薬剤師が医師に疑義照会をかけてしまったわけだ。
実際には、効果が変わらないのだから薬の性質の観点からはどちらでも良いことで照会するだけお互い時間の無駄である。保険なので自己負担の金額差は微々たるものだ。ただでさえ、軟膏を混ぜる作業は通常の調剤より時間を要するので、患者さんの待ち時間が長くなる欠点がある。
【参考文献】
基礎からわかる外用剤 マルホ
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専門家の方にお伺いしたくコメントさせて頂きます。
この記事の情報と受けて、ステロイド外用剤の0.05%と%0.1%で効果に違いはないと理解しておりますが、認識は正しいでしょうか。
お返事いただけましたら幸いでございます。
よろしくお願い致します。
ご質問ありがとうございます。もっともな疑問ですね。異なる有効成分間での比較はできないので、同一有効成分で0.1%と0.05%の比較という意味と考えます。ただ、同一成分で2パターンの濃度が設定されている薬剤は多くはないように思うのですが。ステロイドではないですが、プロトピック軟膏は0.03と0.1がありますね。
一部誤解があるように思います。というのも希釈の議論としては、薄めても結晶が溶け出すので全体のパーセンテージはほぼ同じになるということでした。では、最初から全体に入っているパーセンテージが違えばどうでしょうか。これは違うものと思われます。ただ、プロトピックなどは両パーセンテージで2郡比較した試験があり、効果に大きな差が出なかったとする臨床試験もありますが。
希釈で考えた場合でも、これは薬の種類によります。希釈して効果が減弱する薬剤もあります。例えば、酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾンは基剤中にほぼ完全に薬物が溶解しているため薄めれば効果が減弱します。結晶として溶解せずに残っている成分がある薬剤とそうでない薬剤を分けて考える必要があります。以上、ご参考になれば幸いです。
多面的な角度から解説して頂き、ありがとうございます。
さすが専門家の意見は参考になりますね!
濃度の違いを出したのは、同じヒドロコルチゾン酪酸エステルを使ったロコイド(0.1%)とセロナ軟膏(0.05%)の効果の強さを比べたかったからでした。
白斑に使おうと思っておりまして。
ただ、そもそも本記事は希釈の話で、濃度の話ではありませんでしたね。
失礼いたしました。
しかし色々勉強になりました。
ありがとうございます。
医療関係のことを調べることが多いので、またお邪魔するかもしれません。
また何かの際はどうぞよろしくお願い致します。