Robot Reviewerとコクラン共同計画について

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ついに、医学情報の統合システムが発表された。治療効果などについて検討した医学論文のPDFファイルをドラッグ&ドロップで、このサイトのディレクトリにどんどん入れるだけで統合解析してくれる仕組みである。PICO(PatientまたはPopulation、Intervention、Comparison、Outcome)の枠組み判断から、コクランのRisk of biasの評価の仕組みまである程度の正確性をもって実装されているとのことである(J Am Med Inform Assoc. 2016 Jan;23(1):193-201.)。詳しくはこちらのサイトにあるRobotReiewer.net

医療は膨大な情報にどう対処しているのか

医療に関わっていると、臨床試験で得られた新しい結果を次々と突きつけられる。主流の治療法を再検討するものから話題の代替医療をはじめて検証するものまで内容はさまざまだ。ある病気に対する特定の治療法に関する臨床試験が複数あることはざらで、結果が互いに矛盾することもあれば、データ不足により結果の解釈すら困難なこともある。

こうした情報は、臨床では目の前の患者さんの治療のために利用するものだが、すべての研究論文に目を通すのは事実上不可能である。そこで、医療に関するあらゆる研究を網羅的に集めて批判的な目をもって吟味してまとめる作業が必要になる。従って、こういう仕組みはうまく機能すれば大変ありがたいわけだ。

現状、そうした作業を行う団体はいくつかあるが、中でも有名で信頼度が高いと評されているのが、オックスフォード大学に本部をおくコクラン共同計画である。コクラン共同計画は、EBM(Evidence Based Medicine:科学的根拠にもとづく医療)の考え方に則り、臨床試験やその他の医療研究をあらゆる文献データベースから網羅的に調査を行い、どの症状にはどの治療が効くのかという情報を提供している。

当サイトで、コクラン共同計画によるレビューの結果をしばしば引用しているのも、その情報の信頼度や質の高さゆえである。また、研究に結果を歪めうるバイアスが入り込む余地があるのかも考慮した上で結論が記述されており、排除できないのであればその理由そしてそれにより規定される研究の限界まで示されている。

この「試験を網羅的に集めて統合する」過程は、論文をEMBASEなどの医療データベースからかき集め、いちいち論文の批判的吟味をしてその評価と情報をReview Manager(通称:RevMan このアプリはコクランのウェブサイトで提供されている。同等の機能をもつGDTというWebアプリケーションもある)に入力して解析結果を出していくという過程をたどる(ものだと思う)。

もちろんずさんな臨床研究は解析に組入れないこともあり、研究の質は重視される。それぞれの臨床試験の重みは批判的に検証される。例えば、多数の被験者を含み、バイアスを排除する方法で行われた臨床試験には重みがあるが、少数の被験者しか含まれておらず、バイアスだらけの臨床試験は重みがなくなる。こうした一連の手法は、システマティック(系統的)レビューと呼ばれる。無批判に一部だけをみているだけの報告書や広告とは対極にあたるものだ。今日では、GRADE systemという枠組みをもってして、質の高い診療ガイドラインを作る過程でこの「システマティック(系統的)レビュー」の手法が重要視されている。

コクラン共同計画が生まれた背景〜現状

そもそも、なぜこうした組織が誕生しそれほどまでに高い評価を得ているのだろうか。それを知るにあたり、コクラン共同計画の発足経緯から紹介しよう。こうした統合された統計など微妙なのだと言下に否定する人に会ったこともあるが、確率論的アプローチの正当性をここで説明することはしない。確かに、統計は微妙なものというのは事実である。問題はどこが微妙でどの程度の幅をもったものであるかが分かり、その上でどう評価して現実の行動に応用するのかということだろうと思う。それが分からない人は一様に「微妙」になってしまうのである。

コクランという名称は、スコットランド人のアーチー・コクランに由来する。コクランは第二次世界大戦において、英国部隊の大尉としてエジプトに向かったが、1941年に捕虜になった。その後、戦争が終わるまで仲間の捕虜たちの治療に当たった。この時、コクランは治療の裁量を任されていたが「どんな治療法をどのような時に使えば良いのか知らなかった。無知のせいでその裁量権を無駄にすることになった」と語っている。そして、知識をつけて正しい治療を提供したいという想いから、仲間の捕虜たちに相談して、独自に臨床試験を行ったとされている。

様々な過程を経て、コクランは科学的根拠に基づく医療の大切さ、どの治療法が良いのか医師たちが知ることの必要性を痛感したそうである。一方で、医師たちが臨床試験の結果を学ぼうにも体系的に学ぶのは困難であった。そこで、コクランは数多く存在する臨床試験から結論を引き出すことを任務とする組織を設立することを提唱した。これがコクラン共同計画の前身である。

現在、コクランのセンターは世界中に点在しており、130以上の国の3万7000人以上の医療専門家(2016/10/25、コクランHP参照時点)がボランティアでこれに参加して「あらゆる医療領域における、医療介入の有効性について系統的レビューを行い、それを維持推進することで医師が十分な情報に基づいて判断を下すために役立つ」ことをミッションとして、日々流れ込んでくる臨床試験の結果に対処している。コクランライブラリには日々情報が蓄積され、システマティックレビューが次々と発表されている(現時点で6、7千件のレビューがある)。

薬の効果だけでなく、あらゆる治療法の有効性、予防措置やスクリーニングの価値や、生活態度や食生活が健康に及ぼす影響までもが評価されている。コクラン共同計画は、関連企業と金銭的関係がないので、何の有効性に関してであれ、結果を公表している。コクラン共同計画について、利害関係のなさ、厳密さ、研究の質の高さにおいて、この組織がなぜそれほど高い評価を得ているのかなんとなくご想像頂けただろうか(参考 http://www.cochrane.org/about-us)。

エビデンスの頂点に位置づけられるものとは

このRobot Reviewerは、システマティックレビューの過程のうち臨床上の疑問から検索式を作り網羅的に文献を収集する過程の機能はないものの、複数の研究の批判的吟味(バイアスの評価)および統合解析する過程をコクラン共同計画のそれと同じ枠組みをもって自動で行ってくれる仕組みとのことである。

エビデンスの階層構造が診療ガイドラインで紹介されているが(下図)
エビデンスヒエラルキー
Systematic Reviewはその時点で得られる限りの科学的根拠から導きだされた結論なので、しばしばその上位に位置づけられる。ただ、これはあくまで完璧に各試験が行われた前提の表であって、各試験の質次第でいくらでも上下が入れ替わりうるものである。

Hynesがエビデンスの6Sピラミッド構造というものを提唱している(下図)が、
pyramid_final
※こちらに日本語訳がある http://www.grade-jpn.com/hynes6s.html
システマティックレビューはSynthesesあるいは、その概要であるSynopses of Synthesesに位置づけられている。これらをまとめたガイドラインなどは更に階層が上になる。では頂点の「Systems」がなにかと言えば、囲碁の盤面情報を大量に取り込んでいるAIよろしく、何万とある論文を数分でまとめて読みこなし下位階層の情報を把握し、患者カルテと統合するという存在しうるかも分からない究極の判断システムということになろう。機械が1つ1つの論文の批判的吟味までできるのかと言われれば現時点では難しいようで、これはまだ実現していないのだが、それすらも時間の問題かもしれない。Robot Reviewerはそうした可能性を感じさせる(参考 http://hsl.mcmaster.libguides.com/ebm)。

もちろん、多くの臨床データに基づく科学的な証拠(エビデンス)がなければ、その治療をしてはならないとか効果をうたってはならないとは言い切れない。エビデンスは徐々に時間をかけて蓄積されるもので最初からエビデンスが存在するわけではないからだ。エビデンスそのものが築きにくい分野もある。従って、医師や研究者が日々トライ&エラーを積み重ねる日々が終わるわけでもない。今怪しいと言われている治療法でも将来どうでるかは分からない。

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