【前立腺癌の薬】エンザルタミド(商品名:イクスタンジ)とビカルタミド(商品名:カソデックス)

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ビカルタミド(商品名:カソデックス)からエンザルタミド(商品名:イクスタンジ)に切替えたらPSA(前立腺癌特異抗原)の数値が劇的に下がったという話を立て続けに聞く機会があった。両者とも抗アンドロゲン剤に分類され、男性ホルモンの働きを抑制することで前立腺癌の進行を遅らせる。

ビカルタミドとエンザルタミドの性質の比較

両者の性質は似ている部分もあるが、単純にアンドロゲン受容体へ結合力で見てもエンザルタミドの方が5〜8倍強い。下図に主な特徴の比較を示す。 enzalutamide_bicalutamide エンザルタミドは去勢抵抗性の前立腺癌においても著効を示すのも特徴的である。

エンザルタミド(イクスタンジ)の効果ー化学療法施行後の場合ー

まずはプラセボ(偽薬)と比較してどのくらい効果を発揮するのか。化学療法後(ドセタキセルを含む)の去勢抵抗性の転移性前立腺がん患者に対する試験がある。その結果、全生存期間をおよそ5ヶ月延ばすことが示された。1199名の男性(年齢中央値69歳)が、エンザルタミド160mg/日とプラセボ群に割付けられ、比較検討されたが全生存期間がエンザルタミド群で明らかに優位であったため、試験は早期に打ち切られている。主要結果を以下に示す。 エンザルタミド_プラセボ 出典:N Engl J Med. 2012 Sep 27;367(13):1187-97.
PSAの低下率は目を見張るものがあり、服用中の患者さんでも実際に数値が劇的に下がって驚かれる方がとても多い。プラセボにはないけいれん発作の発生が0.6%あるため、てんかんの既往がある場合は使用に注意が必要である。また、万が一のリスクを避けるため自動車の運転などは避けた方が良いだろう。発作自体は通常、数分安静にしていれば治まる。

エンザルタミド(イクスタンジ)の効果ー化学療法施行前の場合ー

化学療法施行前の転移性去勢抵抗性前立腺癌患者におけるランダム化比較試験もある。こちらでは、全生存期間を2.2ヶ月延伸することが示されている。ドセタキセルなど化学療法施行前でもイクスタンジを使い得る。 1,717人の男性(年齢中央値72歳)が、エンザルタミド160mg1日1回とプラセボにランダムに割付けて病勢の進行により化学療法開始に至るか、許容範囲を越える毒性が発現するまでは服用を継続した試験である。主要結果を以下に示す。 エンザルタミド_prevail 出典:PREVAIL trial N Engl J Med. 2014 Jul 31;371(5):424-33.
やはり、PSA数値は圧倒的に下がる。また、客観的な腫瘍縮小効果もプラセボに比べて明らかに優れており、腫瘍の完全消失(Complete response)及び30%程度の縮小(Partial response)がエンザルタミド群では多くの患者にみられている。一方で高血圧、便秘、疲労、食欲減退、火照り、心電図QT延長、不整脈、下痢、転倒、背部痛などが比較的高頻度で発現している。

エンザルタミド服用によりQOLは改善するのか

PREVAIL試験の二次解析(Lancet Oncol. 2015 May;16(5):509-21.)においてエンザルタミド服用群の方がQOL(生活の質)も改善している。特に痛みが進行するまでの期間の中央値はエンザルタミド8.3ヶ月対プラセボ2.8ヶ月(p<0.0001)とかなり差があり、病勢進行を遅らせることにより痛みを大幅に軽減できることが分かっている。なお、13週時点で有意に痛みを軽減しているが、25週時点では有意な差はなくなっている。

エンザルタミドによる心血管系への毒性

エンザルタミドは心血管系への毒性が比較的出やすい側面もある。転移性去勢抵抗性前立腺癌患者6,735例を含むシステマティックレビュー(Eur J Cancer. 2015 Sep;51(14):1970-7.)において、エンザルタミド服用群はプラセボ群に比べて高血圧の発生が多い。高血圧発生のリスクはプラセボの2.97倍(95%信頼区間2.16-4.07)である。なお、対照群の高血圧発生3.7%に対するNNH(Number needed to Harm)は8~23。重度の(Grade3~4)の高血圧に絞っても一貫した結果となっている。しかしながら、心血管イベント(心筋梗塞、心不全、および虚血性心疾患)発生においては有意な差はなかった。

エンザルタミドとビカルタミドの比較ではどうか

アンドロゲン除去療法(Androgen Deprivation Therapy:ADT)を行っている転移性の去勢抵抗性前立腺癌を有する男性において、無増悪生存期間はエンザルタミド15.7ヶ月に対してビカルタミドは5.8ヶ月であり、無増悪生存期間を有意に延ばすことがランダム化比較試験で示されている。Fact-Pスケールで評価した健康関連QOL低下の中央値は13.8ヶ月対8.5ヶ月(p = 0.007)であった。

因みにFact-PとはQOL評価方法の1つで、吐き気、痛みの程度や、生活上寝たきりになっていないか、排尿排便の支障はないか、睡眠は取れているかなど様々な質問項目から生活の質を総合的に判断する評価基準である。

なお、治療中止につながる有害事象は28%対23%であった(Lancet Oncol. 2016 Feb;17(2):153-63.)。

また、転移性のみならず非転移性の去勢抵抗性前立腺癌患者においてもエンザルタミドはビカルタミドに比べて無増悪生存期間を延長するとする試験がある。割付けの隠蔽化がされているかは不明であるが、アンドロゲン除去療法中の患者396名(年齢中央値73歳、うち非転移性35%、転移性65%)において病勢進行または毒性発現まで治療を継続して解析した。
結果は、エンザルタミド 対 ビカルタミドの比較で
非転移性疾患患者は
無増悪生存期間の中央値 19.4ヶ月以上 対 8.6ヶ月(p <0.001)
50%以上のPSA低下は 91% 対 42%(p <0.001)

転移性疾患患者では
無増悪生存期間の中央値 16.5ヶ月 対 5.5ヶ月(p <0.001)
50%以上ののPSA低下は 76% 対 25%(p <0.001)

有害事象は群間で類似しており、最も一般的な有害事象して疲労、背部痛、転倒、ホットフラッシュ、高血圧、めまいなどがあり、エンザルタミドにおいては食欲低下、ビカルタミドでは便秘、下痢、貧血、および尿路感染などが見られた(J Clin Oncol. 2016 Jun 20;34(18):2098-106.)。

エンザルタミド(イクスタンジ)の問題

効果の面では、一貫してイクスタンジが良い傾向がでているが、実際には費用の問題がある。カソデックスは良く使われる薬剤で薬価も1錠813.2円(ジェネリックなら361円)と比較的高額で売上高も非常に高い薬剤であるが(1日1錠服用)、イクスタンジは費用がその比ではない。薬価は1カプセル2354.1円、実際には1日4カプセル服用なのでそれだけで1日約1万円、月あたり約30万円は要してしまう(自己負担3割でも月あたり10万円近く。実際には高額療養費適用となり上限12000円の会計で済むケースが多いが)。従って、ここぞと言う時に使う薬剤となろうかと思う。

【参考文献】
1、Science. 2009 May 8; 324(5928): 787–790.
Development of a Second-Generation Antiandrogen for Treatment of Advanced Prostate Cancer
Chris Tran,Samedy Ouk,Nicola J.Clegg,et al
2、N Engl J Med. 2012 Sep 27;367(13):1187-97.
Increased survival with enzalutamide in prostate cancer after chemotherapy.
Scher HI, Fizazi K, Saad F, Taplin ME, et al
3、PREVAIL trial N Engl J Med. 2014 Jul 31;371(5):424-33.
Enzalutamide in metastatic prostate cancer before chemotherapy.
Beer TM, Armstrong AJ, Rathkopf DE, et al
4、Lancet Oncol. 2015 May;16(5):509-21.
Effect of enzalutamide on health-related quality of life, pain, and skeletal-related events in asymptomatic and minimally symptomatic, chemotherapy-naive patients with metastatic castration-resistant prostate cancer (PREVAIL): results from a randomised, phase 3 trial.
Loriot Y, Miller K, Sternberg CN,et al
5、Eur J Cancer. 2015 Sep;51(14):1970-7.
The incidence and relative risk of cardiovascular toxicity in patients treated with new hormonal agents for castration-resistant prostate cancer.
Iacovelli R, Verri E, Cossu Rocca M, et al
6、Lancet Oncol. 2016 Feb;17(2):153-63.
Efficacy and safety of enzalutamide versus bicalutamide for patients with metastatic prostate cancer (TERRAIN): a randomised, double-blind, phase 2 study.
Shore ND, Chowdhury S, Villers A, et al
7、J Clin Oncol. 2016 Jun 20;34(18):2098-106.
Enzalutamide Versus Bicalutamide in Castration-Resistant Prostate Cancer: The STRIVE Trial.
Penson DF, Armstrong AJ, Concepcion R, et al

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