【糖尿病】カナグルの大規模試験CANVAS Programには事件の香りがする

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某有名医療情報誌で「SGLT2阻害薬が第一選択へ一歩近づく」とか「これでSGLT2阻害剤の心・腎臓保護効果は確定」などと言わしめ、話題となっている論文がある。カナグリフロジン(商品名:カナグル)の試験である、CANVAS programだ。

エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)のEMPA-REG試験では、明らかな心血管疾患を有する患者に対する恩恵が示唆された。では、明らかな心血管イベントリスクを持たない人々(臨床における患者の大多数だ)に同じように利益がもたらされるのだろうか?この疑問に答えてくれる試験が出てきたのではないかという期待を持っていたのだが。様々な問題点を孕んだ試験ではあるが、それらも論文や付録に明確に書いてくれているのはさすがNew England Journal of Medicine。色々な意味で凄い論文なので、紹介することにした。

研究デザイン

順序立てて見ていこう。まずは、試験のデザインだが以下のように、2つの「カナグリフロジンのプラセボに対する非劣性試験」を合体(!?)させた形となっている。凄いことをする。

患者の組み入れ基準の詳細は付録に譲るが、合算すると、30カ国667施設から総計10142名の2型糖尿病患者が登録されている。実に壮大だ。中央割付けを行なっており、隠蔽化と盲検化も適切に行われている。各群間でのベースラインもバランスが取れており、比較としては良さそうだ。

組み入れられた患者基準の大枠は以下の通り。
HbA1c 7.0%以上10.5%以下(平均8.2)、組み入れ時点のeGFRが30mL/分/1.73m2(体表面積)以上でかつ、
・30歳以上で心血管イベントの既往あり もしくは
・50歳以上で2つ以上の心血管イベントリスク因子を持つ
リスク因子は、罹病期間10年以上、降圧剤内服していて収縮期血圧140mmHg以上、喫煙、アルブミン尿、HDLコレステロール38.7未満のいずれかと定義。ほとんどの患者が、血糖、血圧、およびコレステロールをそれぞれコントロールするために、メトホルミン、降圧剤および脂質低下剤(両群に等しく分布)を服用しており、各群の患者のおよそ50%がインスリンを併用していた。

端的に言えば、心血管イベントリスクが高い患者が組み入れられている。なぜ、リスクが高い人を入れるのか。既存治療がある程度確立されてきている分野で、新薬がそれ以上の有効性や上乗せ効果を実績ある薬と比較して優るのは容易ではないからだろう。穿った見方かもしれないが、効果を示すためには比較的リスクが高い患者を組み入れ、イベント数を稼ぎ、長い観察期間を設けるというのが現実的な方法になるかと思う。逆に低リスクな患者に対して効果が示されている経口血糖降下剤はほとんど皆無である。

論文の結果

結果は下表の通りだが、カナグリフロジンが有意差を持って減らしたエンドポイントは心不全による入院、プライマリアウトカム(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合エンドポイント)及び腎臓関連イベントであった。

総死亡率、心血管死亡に関しては有意差がなく、骨折と下肢切断リスクカナグリフロジン群で有意差を持って多い傾向であった。重要なイベントに着目して述べると、1000人が5年間カナグリフロジンを服用した場合、心筋梗塞による入院が16名減る代わりに下肢切断術が必要となる患者が15名増えるという計算になる。この結果だけなら、下肢切断を過度に恐れる必要はないという意見もあるが、切断に至った患者を見て同じことが言えるだろうか。

アウトカムの時系列グラフを以下に転載するが、100%スケールのグラフで見るとほとんど線が一緒にしか見えず、超拡大スケールで見てようやく僅かな差が視覚的に認識できる程度。統計的に差を出すために試験を大規模にせざるを得なかったと思われても仕方がないほど僅かな効果である。

サブグループ別の解析表は次の通りで、βブロッカーと利尿剤を使用している群で特に有意な差が出ている。要は心血管リスクが高い患者群でのみ効果が得られている傾向にあると捉えれば良いかと思う。

この試験はそもそも、プラセボに対する非劣性試験として組まれておりその非劣性マージンは1.3と設定されている一方で、優越性マージンは1と不均等な設定になっている。最初から、カナグリフロジン群に下駄を履かせた試験だ。仮に有意差が出なかったとしてもメーカーは「(プラセボと同等なので)心血管安全性が証明されました」などと言いおおせるのだろう。それをなんとか有意差が出たら、今度は「心血管、腎臓の保護効果は確定」なる物言いに近づく。そもそも、当初の仮説検定に鑑みれば、この結果自体、心血管イベントに対する効果はプラセボに劣らないことが分かっただけと思えてしまうのだが。1錠205.5円の薬だが、お金を出して飲むメリットのある人は極々限定的だろう。

Figure1のグラフは特徴的で、HbA1cは初期のみ下がっているが、長期的には限りなく元の数値に近づいている。この合併症予防効果はHbA1cの低下によるものではないことが示唆されている。利尿剤と比較して見たらどうなのかとすら思う。体重や血圧はやはり長期的にも下がる傾向にあり、使用者の体感的には嬉しいことが多い(かのような感覚になる)薬である。

試験のスポンサーと論文代筆問題

この試験のスポンサーはヤンセンで、スポンサー、学術運営委員会、および学術研究機関であるGeorge Clinicalとの共同で実施されている。解析はスポンサーとGeorge Clinicalが独立しておこなっており、原稿のドラフトはファーストオーサーによって書かれ、共著者はその後の改訂から携わったとある。 驚くべきことに、論文内に、スポンサーが資金提供をしたMedErgyが論文執筆の支援を行なったとあり、組織ぐるみで論文執筆に関わっていることを堂々と書いている。バイエル薬品のイグザレルト事件を彷彿とさせる。確定ではなく、僕の妄想にしか過ぎないのかもしれないが、事件性を臭わせる。論文をNew England Journal of Medicineは無料で公開しているが、心血管イベントを減らしたとしか思わない人には宣伝になる。製薬業界の商業誌としての一面もあるので仕方ないとは思うが、ブラックな部分が垣間見える。

【参考文献】
Canagliflozin and Cardiovascular and Renal Events in Type 2 Diabetes.
N Engl J Med. 2017 Jun 12.
Neal B, Perkovic V, Mahaffey KW,et al

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