【喘息】吸入β刺激薬の慢性使用はかえって死亡率をあげるのか

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吸入の交感神経刺激薬は、その気管支拡張作用から急性ぜんそく発作の治療によく用いられる。一方で、これらの薬剤は慢性症状の維持療法でもかなり使われる。特に、アドエアやシムビコートといったβ刺激薬+ステロイドの合剤の吸入薬は、急性、慢性を問わずかなりの頻度で処方される。

吸入β刺激薬の慢性使用への疑義

しかし、β刺激薬吸入の慢性使用に関して以下の1〜4のエビデンスが提示されており(N Engl J Med. 1992 Feb 20;326(8):501-6.Lancet. 1990 Dec 8;336(8728):1391-6.)、以前からかなり議論がある。

1、喘息関連死亡率が増加する可能性がある
2、喘息のコントロールが悪化する可能性がある
3、吸入ステロイド単剤でβ刺激薬との配合剤と同等の有効性を達成できる
4、ステロイド吸入下においても長時間型β刺激薬は喘息関連死亡を増やす傾向にある

※長時間型(10〜12時間)β刺激剤の例:サルメテロール、ホルモテロール

セレベントやオンブレスなどβ刺激薬の単剤で長期継続処方されることは今でこそまずないが(FDAでも単剤継続禁忌の勧告が出されている)、少し前までは普通に行われていた。喘息は「気道の慢性の炎症性疾患」であり、根本の原因である炎症を抑えるステロイドを使わずして気管支ばかり拡げても、結局発作を起こしてしまう。

喘息のガイドラインとして代表的なGINA(Global Initiative for Asthma)における推奨は、第一段階、第二段階でのベースは吸入ステロイド単剤、それでも管理が難しい場合にβ刺激薬の配合剤にステップアップとなっている(実際には合剤が初っ端から継続で処方される例は珍しくないが)。

吸入β刺激薬の慢性使用と死亡リスクの関連

β刺激薬の慢性的な使用と死亡率の関係は、古くは1978〜1987年の間に処方された12,301人の患者のコホートを用いた研究で検討されている(Am J Respir Crit Care Med. 1994 Mar;149(3 Pt 1):604-10.)。喘息、心臓病、および全原因による死亡を調査したところ、吸入β刺激薬の慢性使用は喘息関連死亡と相関が見られたというものだ。

また、喘息で死亡した532例の患者を、喘息の入院歴を有する532例の対照患者と比較した症例対照研究(BMJ. 2005 Jan 15;330(7483):117. )で、死亡の1〜5年前の慢性的なβ刺激薬の使用と死亡リスクの相関が見られている(オッズ比2.0,95%信頼区間1.3-3.3)。単純に死亡リスクが高い患者がβ刺激薬を多く使っていた可能性も否定できないが、気管支刺激作用や心毒性のリスクの指摘もある。すると、長期は避けようという考えに寄りそうだが、現実にはそうならなかった。

これは長時間作用型β刺激薬(Long-acting beta agonists:LABA)とステロイドとの合剤が発売されるにつれて、慢性使用が常態化したためではないかと思う。肺機能の改善、無症状期間の延伸、レスキューでのβ刺激剤使用を減らせるなどLABAの有効性を実証している研究はあり、それは薬理学的性質からも納得がいく(N Engl J Med. 1992 Nov 12;327(20):1420-5.)。

しかし、2006年に報告されたSalmeterol Multicenter Asthma Research Trial(SMART研究)という、26,355人の喘息患者にサルメテロールまたはプラセボを28週間投与したランダム比較試験において、従来の治療に長時間型サルメテロールを上乗せする方が、呼吸器関連死亡が有意に増えるという衝撃の結果が出ている(Chest. 2006 Jan;129(1):15-26.)。サルメテロールの使用は、呼吸器関連死亡2.16倍(相対リスク2.16,95%信頼区間1.06-2.41)、喘息関連死亡が4.37倍(相対リスク4.37,95%信頼区間1.25-15.34)と有意な増加に寄与している。

LABA単独療法に関連した重篤な喘息関連有害事象および死亡リスクは、ステロイドとの併用(即ち合剤)ではどうなのか。サルメテロール+吸入グルココルチコイドと吸入グルココルチコイド単独の治療とを比較した37件の研究(13,447例の喘息患者)を含めたコクランのシステマティックレビューがある。死亡率は群間で差がなく(オッズ比0.90,95%信頼区間0.31-2.60)、喘息関連による死亡例の報告はなかった。有害事象の発生数がそもそも少なく、サルメテロールに関連したリスク増加の可能性を排除するには不十分であったが、2群間の有害事象発生率に有意差はなかった。信頼区間の幅からはリスクの可能性は肯定も否定もできない(Cochrane Database Syst Rev. 2013 Mar 28;(3):CD006922.)

最新のICS/LABA(ステロイド+β刺激の合剤)vsICS単独(ステロイド)のランダム化比較試験3報の結果は?

更に、2016年にはNew England Journal of MedicineにICS/LABA(ステロイド+β刺激の合剤)vs ICS単独(ステロイド)のランダム化比較試験が3つ報告されている。

まずは1つ目の多施設試験(VESTRI)。これは、前年に喘息増悪を起こした4歳から11歳までの6208人の子供を、フルチカゾン単独(100mcgまたは250mcg)または フルチカゾン同用量+サルメテロール併用にランダムに割り付け、1日2回1回1吸入で26週間使用してもらい経過をみたものである。

重篤有害事象(喘息の悪化による入院)は併用群で27名/3107名、単独群で23名/3101名で、そのハザード比は1.28(95%信頼区間0.73-2.27)であった。なお、死亡や気管内挿管に至った例の報告はなかった。有意差はないが、リスクを完全に否定できるという結果でもなかった(N Engl J Med. 2016 Sep 1;375(9):840-9.)。

2つ目は、前年に1〜4回の喘息悪化があった12歳以上の患者11,693名を組み入れた多施設試験。ここでは、ブデソニド単独(80mcgまたは160mcg)吸入とブデゾニド+ホルモテロールの併用療法と比較し、1日2回26週間に渡り継続している。重篤な喘息関連事象は、併用群43名/5846名、単独群で40名/5847名に発生し、そのハザード比は1.07(95%信頼区間0.70-1.65)であり、群間で有意差はなかった。なお、併用群で喘息増悪のリスクは16%低かった(N Engl J Med. 2016 Sep 1;375(9):850-60.)。

3つ目の多施設非劣性試験は、11,679人の青年と持続性喘息を有する成人を、吸入フルチカゾン単独 または 吸入フルチカゾン+サルメテロール併用群にランダムに割付け26週間継続して結果を見たものだ。結果、単独群と比較して併用群の喘息関連重篤有害事象のハザード比は1.03(95%信頼区間0.64-1.66)であり、LABAの追加によるリスク増加傾向は示されなかった。さらに、どちらの群でも死亡例はなく、喘息関連入院率に差は認められなかった(N Engl J Med. 2016 May 12;374(19):1822-30.)

ステロイドの併用で喘息関連死亡が減少するために有害事象が覆い隠された可能性もあり、サルメテロールの長期使用による潜在的なリスクはまだ否定されたわけではない。信頼区間の上限を見れば安全と結論づけられるわけでもない。

β刺激薬で症状増悪頻度を減らせる側面もあるので、短期的には使いうる。もちろん、急性増悪なら内服ステロイド内服での対処もありうる。いずれにせよコントロールが良好であれば、LABAの中止が勧められる。年単位で使うことはかえって喘息を悪化させるリスクをはらんでいる。合剤の吸入は値段も高いので、経済的にもよくない。何となくでβ刺激薬配合の合剤を処方し続けるのはやめた方が良い。

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