EBMにまつわる話

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EBMとはEvidence Based Medicine の略である。
この言葉自体が産まれたのが、1992年。
カナダにあるマクマスター大学のデーヴィッド・サケットが提唱した。

サケットはEBMを次のように定義した。
「EBMとは、一人ひとりの患者の治療方針を決めるにあたり、現時点でもっとも優れた科学的根拠を、
 細心の注意を払いつつ、はっきりと明示的に、分別をもって利用すること」

EBMは信頼性の高い情報を提供することによって
医師を助け、患者が最適な治療を受けられる可能性を高める方法論である。

信頼性の高い情報とは、いくつかの臨床試験から得られた科学的根拠であったりする。

臨床試験が行われるようになる以前は、医師は自分の好みや経験、
仲間に教えてもらった方法や似たような症状を示す少数の患者を診た経験から
治療法を選択せざるを得なかった。

こうした考えが産まれる以前は、医師は驚く程無力だったのである。

しかし、臨床試験が行われるようになってからは、
1人の患者に用いる治療法を科学的根拠に基づいて選択出来るようになった。

医療は危険な賭けから合理的学問へと進化したのである。

もちろん、いくつもの臨床試験良い結果を残した治療法だからといつて、
目の前の患者に効く保証があるわけではないし、
全てのパターンにおいて科学的根拠が存在するわけもない。

1つ1つの症例で違うという向きもあるだろう。
一方で、臨床試験の結果は元を辿れば1つ1つの症例の積み重ねでもある。

EBMの手順に則ったアプローチをとるということはすなわち
現状分かる範囲で最も良い結果が得られる可能性が高い治療を患者に施すことである。

EBMの中核となる考え方の重要性は、十八世紀には理解されはじめていたのだが、
一定の行動様式として確立されてきたのは近年のことである。

現代に生きる医療者にとって、
エビデンス(ランダム化臨床試験で得られる根拠など)を用いるのは当然のことになっているが、
この概念は医療において大きなターニングポイントだったのだ。

しかし、医療の主流派が臨床試験というごくシンプルな考え方をとりいれてからは、進展は早かった。
今日では、臨床試験は新しい治療法を開発する際には必須のステップとなっている。

EBMには様々な誤解もある。
それは、EBMという考え方自体がエビデンス偏重主義によるもので、
患者の価値観や周囲を取り巻く環境、好みや行動を無視したものであるというものだ。
そしてそのアプローチは、難しげで威嚇的で根拠のないものは受け入れない冷たいものだというのである。

実際には逆で、科学的根拠のみならず患者背景や価値観などを統合して考える
行動様式こそがEBMなのである。

EBMは、もしも新しい根拠が得られれば、ただちにそれを考慮に入れ、
以前の結論を見直す可能性があるということは忘れてはならない一面である。

ある物事が重要であるか考察する時に役立つ思考法が、
「それがなかったらどうなるか」を考えることである。

臨床試験やEBMが産まれる前の医療はどうであっただろうか。

ずっと昔は
医師たちは、正しいと思って瀉血(悪い部分を切って流血させる治療)を行い
多くの患者を死に至らしめていたし、何百万人という人々に害をなしていたのである。
臨床試験という概念がなかったゆえに。

ブラックなコントをみるような奇妙で残酷な医療 馬鹿馬鹿しい治療行為が
まかり通っていたのである。
(『「最悪」の医療の歴史』というネイサン•ベロフスキーの書籍にそうした事例が多くかかれている)。

今日では、科学的根拠にもとづき、それらの治療法たちは基本的には間違った治療法であるとして否定されている。

EBMは補完代替医療を排除するものであるとする考えもある。
それは間違いで、EBMの考え方自体が 部外者の意見を取り入れるものだ。

例えば、壊血病の治療としてレモン果汁(ビタミンC) を与えることは、
発見された当初は信じられないような治療法とされていた。

それが、臨床試験によって科学的根拠を与えられたため、
主流派はそれを認めざるを得なくなりスタンダードとなったのである。

EBMという考え方がなかったなら、医療者は効果のない治療法に効果があると思い込んだり、
効果のある治療法に効果がないと考えたりといった罠にはまったかもしれない。

最善の治療法に目をつぶり、効果のない治療法ばかりか危険な治療法に頼って、
医療の被害者を増やしていたかもしれない。

現代医療の枠組み全体が、それらの医療研究者たちが臨床試験その他の科学的方法を用いて、
事実を知るために必要な証拠を集めてくれたおかげで成立しているのである。

現在まだ主流医療にはなっていない、補完代替医療についても
何千件もの臨床試験が行われ、有効性を判定する試みがとられている。

サプリメントや栄養療法、漢方、ホメオパシー、鍼などその試みは
様々な分野に及ぶ。

なかには非常に多くの患者を対象とし、その後、別の臨床試験においても
結果が支持されるようなきわめてレベルの高いものもある。

検証して無効と評価されるものもあれば、有効となり標準治療となるものもある。

学生時代からEBMの勉強会に所属して継続的にそうした情報を追っていると
数年の内に 標準的な治療が変わった というものがいくつかある。

そう考えていくと、常識とされていることは案外信頼ならないものである。
科学的な検証を受けず無批判に受け入れられている考え方が
「常識」であったりするわけだから。

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  1. 2015年 10月 25日

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