インフルエンザ治療薬について

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始めてきた方は「このブログを通じて医療従事者と患者さんに伝えたい想い」をお読みください。

インフルエンザ003治療薬

 

毎年冬になると話題になるのがインフルエンザ。
古くはスペイン風邪(1918-1919年、5千万〜1億人が死亡)や
アジア風邪(1957年、100万人以上が死亡)、2005年に猛威をふるった
鳥インフルエンザ、最近では2009年の新型インフルエンザウイルス(A/H1N1pdm09)の
流行もありその時の日本の感染者数は900万人にものぼり、死亡者数は200人以上
とも言われている。「パンデミック」という単語の認知度も上がる出来事であった。

「インフルエンザ」が「死」というイメージに繋がる人もいるのではないだろうか。
しかし、毎年秋から冬にかけて流行する季節性のインフルエンザウイルス感染症は
(健常人が罹患した場合は)基本的に安静だけで自然に軽快する疾患である。

ただし、小児や高齢者、特に基礎疾患のある高齢者では適切な治療を行わないと
死に至ることも珍しくない。年によっては数千人単位の死亡者が出ていることも
事実である。

一方、抗インフルエンザ薬の開発は盛んに行われてきており、
現在日本では5成分が使用されている(下表)

インフルエンザ治療薬

このうちアマンタジン塩酸塩(シンメトレル)は、インフルエンザウイルスA型にしか
有効でなく、最近のA型ウイルスはアマンタジンに耐性を持つウイルスが多いため、
通常使用は推奨されない。
エボラに効果があるかも知れないとして話題になった
アビガン(ファビピラビル)は新型インフルエンザの治療薬であり、
こちらも通常使用されない。

最も使われているのはノイラミニダーゼ阻害薬に属する、
タミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタの4種類である。

これらの薬に「特効薬」的な威力を期待して受診される患者さんはとても多いが
リスクのない場合これらの対症療法が必要であるか、またどのタイミングで
処方すべきかというのは毎年のように議論がなされている気がする。

最も使われている抗インフルエンザ薬である、
ノイラミニダーゼ阻害薬について以下にまとめていく。

ノイラミニダーゼ阻害薬は、A型およびB型インフルエンザの増殖に関わる
「ノイラミニダーゼ」を選択的に阻害し、
さらに新しく形成されたウイルスの感染細胞からの遊離も阻害することで、
ウイルス増殖を抑える。

発症48時間以内に効果があるのは、感染初期のウイルス量が少ないうちに
増殖を抑えることができるためと考えられており、
発症24〜30時間の間に投与された場合が最も効果があるとされている。

表にあるように投与経路が内服(タミフル)、吸入(リレンザ、イナビル)、点滴(ラピアクタ)
と異なるので患者の状況による使い分けもできるようになってきた。
(例えば、吸入できない場合は内服か点滴にする、内服も吸入もできないならラピアクタにする等)

各薬剤について説明を加える。

1、タミフル(オセルタミビル)

発売から10年以上が経過しており使用実績が豊富。
ドライシロップ製剤があり、小児に対しても使いやすいが、
体重8.1kg以下の幼少時への使用経験は臨床試験上ない。1歳未満への安全性は確立されていない。
1カプセル75mgの薬価は317.90円、ドライシロップ3%は1gで244.00円。投与量は表に示した通り。

異常行動への懸念から10代には原則として使わないこととされている。

ドライシロップはミックスフルーツ味であるが、後味が苦く
チョコレートアイスやヨーグルト、ココアなどと組み合わせると飲みやすくなる。
バニラアイス、リンゴジュース、乳酸菌飲料だと味が変化して飲みにくくなる
(タミフルの患者向けしおりにかかれている)。感染予防にも適応を持つ。

2、リレンザ(ザナミビル)

こちらも発売から10年以上がたっていて、使用経験は豊富。
最初に開発されたノイラミニダーゼ阻害薬だが、吸入であることと高価であったこともあり
タミフルの方が大きなシェアをもつ。
さらに吸入タイプであるため全身への影響が少なく、
ウイルスが増殖する気道系に直接かつ迅速に作用する。感染予防にも適応あり。
気管支攣縮の報告があり気管支ぜんそくや慢性閉塞性肺疾患(COPD)のある患者への
使用は推奨されない。

3、イナビル(ラニナミビル)

2010年発売の比較的新しい薬。粉末状の吸入薬で、薬剤が気管や肺に長時間とどまる。
このため、1回の使用で治療が完了するというのが一番のウリ。

ただし、確実に吸入ができない場合は効果が不確実になるというのが弱点。
1回の使用で終わるので
薬剤師が目の前で正しく吸入を説明して吸入が出来るまで見届けた方が良いかもしれない。
息を十分に吐いてから吸うのだが、この時にむせてしまい失敗する方も少なからずいる。
吸入練習用の笛があるのだが、練習してから行う方が望ましいと思われる。

外房こどもクリニックの黒木春郎医師が4歳〜9歳の患者合計232名に
対して行った調査によれば6歳で約8割、7歳で約9割、8歳以上は全員が
吸入練習用の笛がならせたとのことである(『臨床と研究』2012 年11月号)。
従って7歳以上に使う方が確実と言えるだろう。

1容器20mgの薬価は2139.90円。
吸入回数に注意が必要で、1容器あたりの薬剤量が20mgに対して成人及び10歳以上の小児の
用量は40mgなので、2容器分を使用する。
1容器あたり2回の吸入が必要な仕様なので、計4回の吸入を行うことになる。
10歳未満の小児であれば1容器の使用(吸入回数は2回)のみ。

FDAでは認可されていないが、タミフルに劣らないという臨床試験結果があるため使用されている。
リレンザ同様、気管支攣縮の報告があり、気管支ぜんそくや慢性閉塞性肺疾患患者への
使用は推奨されない。予防薬としての効果は不明で、予防用としての適応はない。

4、ラピアクタ(ペラミビル)

新型インフルエンザに対する抗ウイルス活性が高く、また注射薬であることから
経口や吸入が困難な患者に適するのが最大の利点。2010年発売。初めての静注タイプ。
150mgで薬価3338.00円、300mgで薬価6126.00円と高価。
低体重出生児、新生児に対する安全性は確立されていない。

予防としての投与は推奨されていない。

 

5、アビガン(ファビピラビル)(未承認)

既存のノイラミニダーゼ阻害薬とは異なり、ウイルス細胞内での複製に関与する
RNAポリメラーゼを阻害する。判明している特徴としては、A型、B型のみならず
C型インフルエンザにも有効であり、ノイラミニダーゼ阻害薬の耐性ウイルスにも
効果を発揮する可能性があるということ。
また、発症後早期に使用する必要がある上記4剤と異なり投与が遅れても
効果があるとされている。

※なお上記治療薬には含まないが、ビタミンD濃度がインフルエンザ罹患率に
 関連するという説がある。まだ詳細に調べてはいないが、
ビタミンDサプリメントでA型インフルエンザの発症がプラセボが167人中31名(18.6%)
 だったのに対してビタミンD摂取で167名中18名(10.8%)と
 約半数になったという研究がある。
Am J Clin Nutr. 2010 May;91(5):1255-60. doi: 10.3945/ajcn.2009.29094. Epub 2010 Mar 10.

★適応と使い分けについて

日本感染症学会は、抗インフルエンザ薬の使い分けなどを示した
『抗インフルエンザ薬の使用適応にういて(改訂版)』をWeb上で公開している。
http://www.kansensho.or.jp/guidelines/110301soiv_teigen.html

それによれば、
インフルエンザ治療は患者の基礎疾患やその程度に関わらず
重症度そのものが重視されるべきで、
下のフローチャートの指針に従って対応すべきであるとされている
(上記ページの文章より筆者がチャートにした)。

インフルエンザ治療フロー

4剤について共通していることとして、
因果関係は不明であるが未成年者への投与で異常行動報告があることである。
添付文書にも「自宅療養において療養を行う場合、少なくとも2日間、
保護者等は小児•未成年者が一人にならないよう
配慮することについて患者•家族に対し説明を行うこと」と記載されている。
異常行動の報告が最も多いのがタミフルで、
「原則10代の患者には使用を差し控えること」と警告されている。

また、先に発売されたタミフルとリレンザの方が臨床データが
充実しているということも大切な側面である。

さて上記から使い分けの目安を箇条書きにすると

•服用回数を減らしたいなら3か4
•治療を確実にしたいなら吸入以外にする
•腎機能低下があるなら1か4
•予防に使うなら1か2

といったところ。
なお10代はなるべく全て控えた方が良くて(特にタミフルのリスクが高い)
治療費は タミフル<リレンザ<イナビル<ラピアクタの順である。

 

★効果と副作用について

まず各薬剤服用後の解熱までにかかる時間について。
日本臨床内科会「インフルエンザ診療マニュアル」に下記の表があった。

インフルエンザ治療薬解熱時間

効果そのものについては、以下のコクランレビューが参考になる。
Cochrane Database Syst Rev. 2014 Apr 10;4:CD008965. doi: 10.1002/14651858.CD008965.pub4.Neuraminidase inhibitors for preventing and treating influenza in healthy adults and children.

詳細は原文にあるが、主な結果を抜粋しておく

•症状改善までの期間(プラセボと比較して)

タミフル 成人:16.8時間短くなる(7日→6.3日)
     小児:健常な小児で29時間短くなる 喘息小児には効果がない
リレンザ 成人:0.6日短くなる(6.6→6日)
     小児全体:効果は認められず
総じて1日弱、症状が軽くなるのが早くなるということ。

•入院リスク

成人でタミフルの使用により入院リスクが減ることは示されなかった
小児や予防としての使用の有効性がなかった。リレンザに関してはデータの報告がない。

•インフルエンザによる合併症リスク

タミフル及びリレンザで成人小児共に重篤な合併症を有意に減らすことはなかった

•肺炎リスク

タミフルは肺炎リスクを減らす可能性がある(NNT=100)が、
より正確な肺炎の診断基準をもって判定した試験では有意差がなかった。
リレンザは肺炎リスク減少を有意に減らすことはなかった。
ただし、調査の限界もありここについては議論の余地があるところである。

•気管支炎、耳炎、鼻炎について

リレンザは気管支炎リスクを減らす(NNT=56)が、タミフルは減らさなかった。
いずれの薬も耳炎や鼻炎リスクは減らさなかった。

※NNT:Number Needed to Treat

•治療の害

タミフル 成人だと吐き気、悪心(NNH=28)、嘔吐(NNH=22)
     ざっくり約4,5%の確率で左記の副作用が出る。
     小児では 嘔吐(NNH=19)を招く例が多かった
     ※NNH:Number Needed to Harm
小児においては、用量に増やすほど精神系の副作用がふえる事が分かった。

ちなみに下痢のリスクが減り(NNT=43)、
    心臓系の副作用リスクも減る(NNT=148)ことが示されている。

この結果を見て思い出すが、僕の祖父は死ぬ直前にインフルエンザを発症し、
軽快しかけたかに見えた直後に心室細動を起こして亡くなった。
ノイラミニダーゼ阻害薬を使っていたら確率は低いが結果に影響を
及ぼしたのかもしれない。

•予防的治療

インフルエンザの症状悪化を防ぐ可能性が示されている
詳細な統計データはコクランのページを参照されたい。

•まとめ

タミフル、リレンザの効果はやや症状軽快までの時間を短くする
予防的に使ってもインフルエンザの症状悪化リスクを減らす

タミフルを使うと吐き気、嘔吐、精神症状(未成年)が増える
リレンザの方がやや副作用が少ないのは恐らくバイオアベイラビリティが低いからだろう。
当然のことながら、利益と害のバランスを考慮して使わなければならない

ついでに書いておくと、以下の研究ではタミフルで気道感染症が
減らせる可能性が示唆されているが、
吐き気、嘔吐が増えることは同様に述べられている。

Lancet. 2015 May 2;385(9979):1729-37. doi: 10.1016/S0140-6736(14)62449-1. Epub 2015 Jan 30.Oseltamivir treatment for influenza in adults: a meta-analysis of randomised controlled trials.

そもそも薬を使うべきか否か微妙な薬であるが、ハイリスク群には使う意義があるかもしれない。

今回は治療薬について触れたが、
時間があればインフルエンザワクチンについても考察していこうと思う。

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