収縮期血圧120未満で予後改善の衝撃ーSPRINT試験ー

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2015年11月9日に米国で発表された高血圧治療に関する大規模試験が大きな話題を呼んでいる。

SPRINT試験:A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure ControlThe SPRINT Research GroupN Engl J Med 2015; 373:2103-2116

ここに論文を置いておく。

更に詳細に検討したい人は以下に試験のプロトコール、補足説明などがある。
http://www.nejm.org/action/showSupplements?doi=10.1056%2FNEJMoa1511939&viewType=Popup&viewClass=Suppl

Supplementary Appendix(付録)

論文を読む気力がある人は僕の駄文はスルーしてそちらのみお読み頂ければ。

この試験は50歳以上の高血圧患者を対象に行われた。組み入れられた患者は、心血管リスクの発症リスクが高い9361例(収縮期血圧130〜180)。心血管疾患の既往があるとか75歳以上であるとか比較的ハイリスク群を対象にしている。(詳細な組み入れ基準は上記Supplementary Appendixにある)。ただし次の患者群は試験より除かれている;糖尿病,脳卒中の既往,多発性腎嚢胞,6ヶ月以内の著明な蛋白尿,6ヶ月以内の腎不全。左室駆出分画<35%

凄くざっくりいうと糖尿病がない人で、ハイリスクな患者を対象にした試験である。結果としては、高血圧患者を対象に収縮期(いわゆる上の)血圧を120mmHg未満コントロール群と140mmHg未満目標群とで比較したら、前者の方が心筋梗塞、脳卒中、心不全、心血管死を含む複合心血管病の発症が有意に減少したというものである。ただし、目標血圧120未満では,低血圧,失神,電解質異常,急性腎不全が増えている。こういう結果が出ると、当然製薬会社の陰謀ではなかろうかとかいう話が出るのだが、この試験は国の公的機関主導で行われた。

普段から利用している医学系データベースサイトDynaMedのコメントを参考にしながらコメントしていく。因みにDynaMedではこの試験結果を「Evidence level 1: likely reliable evidence」としており、試験デザイン自体も信頼度の高い方法で組まれている。

因みに各種ガイドライン(米国,英国,カナダ)では,140未満が一般に推奨されているが,年齢や心血管リスクが微妙に異なっているので一律にそうということではない。いくつかのエビデンスでは強力な降圧薬使用により,血圧は低いほど心血管イベントは減ることが示唆されているが,その結果はそれぞれ異なっている。

SPRINT試験の大雑把な結果を抜粋していくと次の通り。
•ベースライン血圧140/78,平均降圧薬数1.8剤,平均3.26年追跡
•最終平均血圧:厳格群121.5mmHg ,標準群134.6mmHg
•使用降圧薬数:厳格群2.8 ,標準群1.8
•年間イベント率:厳格群1.65% ,標準群2.19%
(p < 0.001, NNT 185/年) •心血管イベント,心不全は厳格群で著明減少。他のアウトカムは不変 原文より結果を転載する。 結果の表 SPRINT_primary_secondary_renal

総死亡率のグラフ
総死亡は厳格群1.03%vs標準群1.4%(p = 0.003, NNT 270/年)
SPRINT_総死亡

副作用について検討した表
SPRINT_sideeffects

重篤な合併症は両群で同等
低血圧,失神,電解質異常,急性腎不全は厳格群で有意に多い

厳格にコントロールすると沢山の人の副作用が増える.でもイベント率は年間185人に1人しか減らさないし、死亡率に至っては年間に270人に1人減るという程度である。この事実をどう捉えるかは価値観とか好みとかその時の患者背景によるのだと思う。

この試験では,標準群が既に135未満だった場合,治療を減らすようなプロトコールになっていて、普通あまりそういうことはしないのだが、それ故薬剤を減らされた群では,厳格群の利益がより増強されたのではと疑えなくもない。

標準血圧治療群のプロトコール
sprint_protocol

J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)の桑島巌先生コメントが以下にあり、確かにそうだなと思う。
http://j-clear.jp/teigen5.html

因みに僕は血圧を下げすぎるのは、どちらかと言えばあまり良くないと考えている(もちろん、その考えを覆す客観的事実があれば改めるのではあるが)。全身の細胞に酸素と栄養素を送り届けるのが血液で、心臓から送り出された血液が全身を回る。それに必要な血液の圧力が血圧なのだから。また、血管そのものの強度や硬さ柔軟さが人によって異なる以上、収縮期の圧力のみで議論するのにも抵抗がある。ゴムチューブなら十分な水圧をかけてよいかもしれないし、ガラス管ならそうはいかない。

それから歳をとるにつれ、誰でもある程度血液循環が悪くなるのだから、身体の機能として血圧を上げて全身細胞に血液を届けようとするのが普通である。血液の流れに対する抵抗が強くなった時に、血管が狭くなった原因を取り除かず単に降圧だけをターゲットにすると、細胞、組織、臓器、脳などは酸素と栄養素不足、エネルギー不足になるわけである。このため、降圧薬を飲むとめまい、頭痛、疲労、集中力低下、冷え性などの副作用が出たりする。高血圧の原因は様々で原因を特定するのは意外に難しい。

原因の分からない高血圧は「本態性高血圧」というもっともらしい病名になるのだが、腎臓など他の要因からくるのが「二次性高血圧」である。こちらは原因を治療するわけである。高血圧の9割を占める本態性高血圧は無症状で経過する。単純にガイドラインの設定数値より少し高いということである。因みにガイドラインは、様々な臨床試験の結果を反映して作るわけだが、日本のそれは年齢区分による降圧目標が厳密にはそうした科学的根拠を反映しているとは言えない。従って、個々のケースにおいてはそういうザックリとした情報だけでは対応できないことがごまんとある。

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