インフルエンザワクチンの予防効果はどのくらいか

Pocket
LINEで送る

始めてきた方は「このブログを通じて医療従事者と患者さんに伝えたい想い」をお読みください。

以前、インフルエンザの治療薬についてまとめたが、今回はワクチンについて書いていく。

インフルエンザ002ワクチン

インフルエンザワクチンを接種すると、どのくらいインフルエンザ発症を予防できるのか。

色々と毎年統計が出ているが、年度によってその確率は変動すれば年齢層によっても傾向が大分異なる。

コクランから出ている論文によれば、健常人であれば71人接種して1人予防できる程度の効果だという。
それは絶対的に正しい数値ではないが、1つの目安とはなる。今年度であれば、
接種1本3,4000円はするので安く見積もっても71×3000=213000円かけてようやく1人予防できましたというレベル。

ワクチンに失望されただろうか?

 

ちなみに今シーズン(2015-2016)は、インフルエンザワクチンの価格が去年の1.5倍ほどに高騰し、値上げ後の料金は3500円以上4000円未満が最多であった。値上げの主な要因は、ワクチンに盛り込まれる抗原がA型2種、B型1種の3種類(3価)からA型2種、B型2種の4種類(4価格)に増えたことである。

 

従来、ワクチンに盛り込める抗原数には制限があったのだが、国がこれを緩和して4価が実現した。
毎年同じものを打っているの?ときかれたことがあるが、もちろん違う。

さて、ではざっくり冒頭に述べたような効果として、なぜ世界各国で政府がワクチン接種を推奨しているのだろうか。ワクチンがどの程度有効なのか実効数値を語るのは難しいが、先に述べたように100%にはほど遠いのは確かである。個々人レベルで見た時にさほど有効性が高いというわけでもなさそうだ。
しかし、社会全体としてみると印象が逆転しうる。

 

そもそもワクチンでインフルエンザ感染を完全に予防することが何故こんなに低確率で困難なのだろうか。

それは、インフルエンザワクチンを作ること自体、コンスタントに変異を起こしている数百ものターゲットを狙い撃ちしようとしているようなもので、そのうちのどれが流行るかなど完璧に知りうる術がないからである。

インフルエンザウイルスには実に200以上のタイプがあり、それらは我々の体内や動物の体内で進化しその勢力を拡大する。
それぞれのウイルスがインフルエンザの症状を起こすが、我々のカラダは以前感染したかワクチンを打ったものに対してしか抵抗性を示さない。

毎年、前年度のデータからどのタイプが最も流行りそうかを3つか4つまで絞っていき、
それらに対してワクチンを作っていくのだが、あくまで未来予測なので完璧な防御にはなりえない。それに、ワクチンに対して反応性のない人もある程度いる。

 

インフルエンザワクチンはどのくらい有効なのか

日本でも有効性を調べるべくデータ収集を2001-2シーズンからスタートしており各シーズンの統計が出ているが、本稿では米国のデータを参考にみていく。米国では昨年がとりわけワクチンのはずれ年だったようだ。米国の政府機関であるCDC(Centers for Diseases Control and Prevention)によればA型インフルエンザへの有効性は18%B型への有効性は45%。トータルでみても19%の奏功率であった。

 

つまり、ワクチン接種によってインフル感染で受診するリスクが19%下がるということだ。他の年ではもっと有効な時もあった。2011-12年では、総合して47%の奏功率を誇り、インフルエンザ関連入院を71%減らしたとする研究もある。

年によって相当な幅がある。ただ、それらの測定方法や数値が完璧であるとは言い切れない。

何故なら、データ収集の方法にも限界はあるし、インフルエンザではなくともインフルエンザに似た症状を疾患もある。

どのくらいリスクが減ったのか、相対リスクの数字だけでは全てを語ることはできない。

 

個人レベルでのインフルエンザワクチンのインパクトを理解するのに有用な指標

 

個人レベルでのインフルエンザワクチンのインパクトを理解するのに有用な指標に、NNVというものがある。これは、1人のインフルエンザ発症を防ぐには何人にワクチンを摂取させる必要があるか=number needed to vaccinate(NNV)を示すものである。
例えば、触れた人100%に感染するウイルスがあったとして、それに対するワクチンが100%それを防御できるとしたらNNV=1となる。

もちろん、現実にそんな例はないのだが。冒頭で述べたコクランレビューによれば、
インフルエンザワクチンのNNVは71 (これは、インフルエンザ様の症状を示す類似疾患を除いた、実際のインフルエンザに関しての数値)である。

 

この数値がピンとこないとか、それでは打つ意味がほとんどないではないか、という人がいるかもしれない。実際にはこのくらいの数値でも打つ意味はある。

比較をいくつか挙げる。

 

まず、水泡に対するワクチンのNNVは5〜12であり一般に85%以上の有効性である。
インフルエンザと違って水泡のウイルスは頻繁に変異することはなく、有効なワクチンを作るのがより簡単であるためだ。

HPVワクチン(正確な名称ではないが、いわゆる子宮頸癌ワクチン)のNNVは100とする研究がある。
つまり、1人子宮細胞が癌の前段階の病変へと進展するのを抑えるのには100人にワクチンを接種させる必要があるということである。
※今のところHPVワクチンは癌そのものというより、前癌病変を減らすことしか証明されていないので解釈に注意が必要ではある。

NNV=71という数値は健康な大人に対する数値であって、インフルエンザワクチンがより効果的である子供や、逆に反応性の低い高齢者などでは数値が変わるであろう。
NNVは個々に対する効果を示すには良いが、やはり全体像を掴むには不十分で、ましてやそれをもって結論は出せない。

 

感染性のウイルスに対するワクチンの意義を考えるには個人、コミュニティ、地域、社会全体という幅で考えることが大切だ。毎年、何千人というすでに弱っていたり、病気をもっている人がインフルエンザに感染して命を落としている現実がある。
そこで集団免疫という概念が出てくる。免疫を持っている個体が増えていけば病気自体が段々流行しにくくなるだろうということである。

 

Rotten apple spoils the barrelという言葉がある。
つまり、腐ったリンゴを樽に1つ入れておけば、同じ樽に入っている全てが腐ってダメになるということで、
組織の中に悪い人間が1人混ざるだけで全体に悪影響を及ぼすことの例えとして使われるフレーズである。

インフルエンザワクチンに関して言えば、上記のような有効性でもその1人を減らすことが社会的ベネフィットになるのではということになる。

実際にインフルエンザワクチンは総人口に対する罹患率と死亡率を低減させるというデータがある。
CDCによればインフルエンザによる死亡人数は毎年3000人〜49000人にものぼる。
集団免疫を獲得すれば、1つの感染症がハイリスクな人に蔓延するのを防ぐことができる確率が高まりトータルとしてもインフルエンザの発生リスクは下がる。

ワクチンを接種しなくても症状を発症しないので接種しないという人もいる。確かにウイルス保有者の2、30%は無症状なのだが、ウイルスを保有していて媒介者となることもありうる。自分は良くても周りはそうではないかもしれないということだ。

 

前年度にワクチンを接種したら今年度はしなくて良いか。

まず、ワクチン接種はお金もかかるし手間である。注射に抵抗がある人もいるだろう。
最近はスプレータイプジェットインジェクターなんてものまで開発されているようではあるが。

毎年ワクチンを接種するのは防御能力を獲得するのに果たして有効なのか、という疑問がある。
実は、繰返しインフルエンザワクチンを接種すると、最新のワクチンの効力を落とすのではないかという説がある。
2013年に発表された、2010-2011年のインフルエンザシーズンにおける328世帯(1441名)の追跡調査がある。それによれば、驚くべきことに、ワクチン接種のベネフィットは昨年度に接種していない世帯の方が大きかったのである。

前シーズンのワクチン接種が今シーズンにマイナスに影響するかもしれないという、
この予想外の結果を受けて、2014年に更に大規模な調査結果が報告された。

7000名以上の人口について8年に渡るインフルエンザシーズンのデータを調査したところ、
最もワクチン接種が効力を発揮したのはそのシーズンに接種した場合のみであることが分かった。

 

今シーズンと前シーズンのワクチン接種の予防効果は同様であり、ワクチンによる予防効果は、過去5年間にワクチン接種歴のない人で最も高かった。

言い換えれば、当該シーズンに対しては前5年間のどのシーズンの接種も無効であるということだ。
繰返しインフルエンザワクチンを打つことが、防御力をより強固にするどころか減衰させるという結果には非常に混乱させられる。
年1回のワクチン接種の長期的影響を明らかにするために、さらなる研究が必要であるとして論文も締めくくられている。

例えば説明として、最初の接種年に作られた抗体が次の年に接種するワクチンを(免疫応答する前に)中和してしまうのでは?
ということはあくまで可能性としてだが、言いうる。
しかし、この根拠を得るのはそう簡単ではなさそうだ。

 

毎年接種群と特定の年しか接種しない群で比較研究するにしても、
それをやりきるには国によっては倫理的問題があるかもしれないし、大変な労力でもある。
毎年接種の推奨を覆すには十分な根拠は現時点でなく、
接種による一定の有効性は示されているので、現時点で分かっている情報からすれば、
どちらかと言えば接種する方が良さそうである。

ましてや、去年やそれ以前にワクチン接種したから今年接種しなくて良いと断ずるのはできないのである。

↓ ↓ ↓この記事に共感した、面白かったらこちらをクリック!
dqranking  dqmura

 ご案内

講演、取材についてご相談、お申込み

薬についてのご相談

薬局のお悩みについてご相談

↑トップページに戻る

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

Translate:

アーカイブ

ar

おすすめメディア集

hymkbanner

セールスが苦手だからこそ、出来る!作れる!売り込まないセールス設計とは、お客様から選んでいただける体制を作れればいい。その体制は、あなたのビジネスの「強さ」と「違い」を作り出し、活かすことで構築できる。その構築方法をお伝えしています。

ファーマシストフロンティア

私も連載している人気マガジン。広告によって編集内容が左右される従来の雑誌とは一線を画し、実相を探求したウェブマガジン。必要とされる薬剤師になるための必読書、それが『ファーマシストフロンティア』です。

お問い合わせ

インバウンド003

facebookページ(いいねを押していただけると励みになります!)

PAGE TOP
Translate »