ベンゾジアゼピン系薬剤と認知症リスクは関連があるか

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ベンゾジアゼピン系薬剤と言われる、睡眠導入や抗不安作用を目的として用いられる薬がある。薬理作用としては、抑制系の神経伝達物質GABAに作用し、鎮静効果を発揮するものであるが、一方でノルアドレナリン、セロトニン、アセチルコリン、ドパミンなど脳内の興奮系神経伝達物質の働きを低下させるとされている。そのため、注意力、記憶、筋緊張、情緒反応、内分泌作用、心拍数、血圧コントロールの機能損失を招く可能性が指摘され問題となっている。

同薬剤に関する有名な冊子で「アシュトンマニュアル」というものがある。英国ニューカッスル大学神経科学研究所教授ヘザー・アシュトンが、ベンゾジアゼピン離脱クリニックでの経験などをもとに、ベンゾジアゼピンの作用、副作用、離脱症状、減薬法などをまとめたマニュアルである。2012年7月に日本語版訳が公開されている。

アシュトンマニュアル
http://www.benzo.org.uk/
アシュトンマニュアル日本語版pdf
http://www.benzo.org.uk/amisc/japan.pdf

同マニュアルに、ベンゾジアゼピン系薬剤で起こりやすい問題として次のようなものがあげられている。

・耐性ー常用すると効果が薄れやすい。従って徐々に薬の量や種類が増える。
・睡眠作用に対する耐性は早く形成され、抗不安作用の耐性はゆっくり形成される
・数か月服用しても薬の効果が持続するという科学的根拠はほとんどない
・依存症ー数週間、あるいは数か月の連続的な常用で薬物依存を形成
・離脱症状ーこのために服薬中止が困難になる
・記憶障害 ・ストレス ・興奮 ・抑うつ

覚醒剤や危険ドラッグの使用者を含む薬物関連精神疾患の患者が、乱用した経験がある処方薬トップ5が厚労省発行の「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」に記載されている。1579症例を分析した同検査で、乱用される上位1〜4は全てベンゾジアセピン系薬剤である。

1位 エチゾラム(デパスなど)120例
2位 フルニトラゼパム(ロヒプノール、サイレースなど)101例
3位 トリアゾラム(ハルシオンなど)95例
4位 ゾルピデム(マイスリーなど)53例
5位 バルビツレート含有剤(ベゲタミン)48例

因みに、5位のベゲタミンも非常に強力な配合剤でいわゆる赤玉、白玉などといわれる乱用されやすい薬剤の代表例である。
同調査で、患者の85%が乱用薬を精神科からの処方として入手している状況も驚きである。

薬理作用上、認知機能を低下させる可能性は高いのではないかと思われるが、短期使用では使いやすくまず問題を起こすことはない。「認知症」という疾患そのものと関連があるのではないかというまことしやかな噂がありその関連性につきよく質問を受ける。まず認知機能が落ちることと認知症という疾患はイコールではないというのは述べておく。その上で、その関連性について以下で検討する。

同薬剤の服用が認知症発症リスクと関連しないという報告はいくつかあるが、その内2つ(1と2)を紹介する。いずれも65歳以上の中高齢者を対象に1〜3年にわたり経過をみた研究である。

1、Benzodiazepine use and cognitive function among community-dwelling elderly.Clin Pharmacol Ther. 1998 Dec;64(6):684-92.
ここでは、65歳以上の高齢者でベンゾジアゼピン系薬剤の服用または服用歴が認知機能低下と関連なしと結論している。

2、Benzodiazepines may have protective effects against Alzheimer disease.Fastbom J1, Forsell Y, Winblad B.
75歳以上の高齢者が対象とした試験。年齢、性別、教育歴、NSAIDs、エストロゲンなどの交絡因子を調整してなお、ベンゾジアゼピン系薬剤服したほうがアルツハイマーの発症が有意に少なかったとする研究。

逆に、ベンゾジアゼピン系薬剤を使用して認知症が増えたとする研究を2つ(3と4)を紹介する。これらは長期間追跡調査を行っている。

3、Benzodiazepine use and risk of dementia: prospective population based study.BMJ. 2012 Sep 27;345:e6231. doi: 10.1136/bmj.e6231.Billioti de Gage S1, Bégaud B, Bazin F, Verdoux H, Dartigues JF, Pérès K, Kurth T, Pariente A.

概要を書いておく。
前向きコホート研究
1063名の(研究開始時点で)認知症発症していない患者(平均年齢78.2歳) を15年まで追跡調査
253名(23.8%)で認知症新規発症。8.9%がベンゾジアゼピン系をベースラインの時点で新規開始 (2年間までの使用)

ベンゾジアゼピンの新規開始は使用しないのに比べて1.6倍認知症発生リスクが増えた
(調整ハザード比 1.6, 95% CI 1.08-2.38)
新規ベンゾジアゼピン使用の5つのコホート累積ハザード比は 1.46 (1.10 – 1.94)で一貫性のある結果。
補足的なnested症例対照研究では、ベンゾジアゼピン使用は、非使用者に比べ、55%認知症リスク増加 (調整オッズ比1.55, 1.24-1.95)

4、Benzodiazepine use and risk of Alzheimer’s disease: case-control studyBMJ 2014; 349 doi: Cite this as: BMJ 2014;349:g5205

カナダのデータベースを利用したケースコントロール研究。66歳以上のアルツハイマー型認知症と診断された1796人と、条件をマッチさせた対照(認知症ではない)7184人を比較( >66歳)。少なくとも6年以上のフォロー期間を設けている。ベンゾジアゼピン系薬剤を使用している方が、アルツハイマー型認知症が43-51%多い。

・長期に使用するほど認知症が増加
1〜90日 5%増加
91〜180日 28〜32%増加
180日以上 74〜84%増加

・半減期が長い薬ほど認知症が増加
短時間作用型(半減期<20時間):37-43%増加
長時間作用型(半減期>20時間):59-70%増加

短時間型、長時間型の薬剤例
bzlongshort-1

結果の表
2014bmj_bz

1,2と3,4で相反する結果であるが、研究方法や結果の評価方法について相違がある。抗不安薬と睡眠薬を厳密に分類していないもの、服用期間にばらつきがあるもの、ベンゾジアゼピン系を服用するに至った原因の疾患など、他の要因(交絡因子)を十分に調整されていない部分もありデータの解釈にも限界がある。様々な因子で調整しているものの、薬剤の効果を直接評価する試験デザインではないので直接の因果関係はわからない。リスクがあるから単純に「使わない」と断じるわけには、実際問題としていかない。動物実験レベルでもベンゾジアゼピン系が認知症の直接の原因となる根拠は今のところ得られていないようである。統計的に証明しようとするなら、20〜30年は要することになりかねない。

一方で、服用しないことによる睡眠の質の低下や不眠症自体が認知機能障害を招くことがあるため、不眠症を治療しないことによる認知症発症リスクの評価も必要なのかもしれない。不眠症状が強ければ薬剤を使う必要が生じる可能性はある。

今いえることは以下のようなところだろう。
•ベンゾジアゼピン系と認知症の直接の関連は不明だが、服用群はリスクが上がる
•長期使用に関してのリスクは十分に認識して使用制限が望ましい(特に高齢者)
•半減期が長い程、認知症の発生リスクが増えるが因果関係は不明

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