過敏性腸症候群(Irritable bowel syndrome :IBS)

Pocket
LINEで送る

始めてきた方は「このブログを通じて医療従事者と患者さんに伝えたい想い」をお読みください。

過敏性腸症候群は「腹痛を伴う下痢や便秘などの排便障害」と定義され、下痢型、便秘型、混合型の3つの病型に分類される疾患である。ストレスが原因で腸の動きがおかしくなり起こることも多く、慢性的な下痢の原因としても良く知られる。逆に腸の動きではなく形の異常で起こる場合もあり、結果的にそれがストレスとなるというパターンもある。因果関係を見極めておかないと治療上方針を誤る可能性があり注意が必要だ。「形の異常」ではねじれ腸、落下腸といったものが提唱されており、これはマッサージなどで改善する場合も多いようである。

症状の男女差

男性は下痢型、女性は便秘型が多い傾向にある。男女の体質の違いも考えられるが、男性の方が下痢になりやすい環境に置かれているという外的要因もあるのかもしれない。大事な会議の前にトイレに行きたくなる、電車に乗るとトイレに行きたくなるなど、過敏性腸症候群の約半数が便失禁を経験しているとするインターネット調査もある。生命にすぐ関わる疾患ではないが、日常生活に支障が出るため深刻で、仕事で上司の一言によって悪化して、便失禁をして会社を辞めてしまったなどという例もあるようである。

過敏性腸症候群の潜在患者数

IBSの潜在患者数はおよそ人口の10〜20%、1200万人とも言われている。世界中では、15歳以上の162243名の人口に対する研究で、有病率は女性で14%、男性で8.9%で各地域では下表の通りとされている。
ibs_prevalence
Am J Gastroenterol. 2012 Jul;107(7):991-1000
非常に潜在患者数が多く、この症状で悩まされている方は体感ベースでも非常に多い。

自然治癒するケースやプラセボで治るケースも多い

この疾患の治療については有効とされる方法が多数ある。ただし、特別な処置をしなくても比較的簡単に治癒するという一面もある。多くの場合、治癒のきっかけは「この下痢はストレスのせいである」「体質だから仕方がない」と原因が分かって言語化できたこと、であったりする。もちろん大元のストレスが軽減するわけではないが、不調の原因が分かるだけで気が楽になるのである。良い意味での諦めや悟りが治癒になってしまうようだ。また、40、50代と年を重ねるにつれて自然治癒する例も多い。

メンタルな側面が関与するという意味で、場合によっては抗うつ薬を飲むことで改善することもある。面白いのは、プラセボを偽薬だと伝えた上で飲ませても非常に有効であるということだ(Placebos without deception: a randomized controlled trial in irritable bowel syndrome. PLoS One. 2010 Dec 22;5(12):e15591.)。こんな疾患こそプラセボ製薬の出番かもしれない(笑)

食事療法のポイント

下痢や便秘の状況は食事内容にかなり左右される。便秘型であれば水分や食物繊維をとる、下痢型であれば消化の悪いもの、冷たいもの、刺激物などを避けるなど食事や生活習慣の改善も大切になる。以下に イギリスのpatient.co.ukというサイトにあった患者向けリーフレットに書いてあった食事のポイントを書いておく。

•定期的に食事をとる。ゆっくりとしたペースで食事できる時間をとる
•食事を抜いたりして、食と食の間に長時間を空けないようにする
•最低1日8カップくらいの水分は摂取する。できれば、水かカフェインを含まない飲み物が良い。
 これにより便が柔らかく保たれ、お通じが出やすくなる
•お茶やコーヒーは3杯程度までに抑える(カフェインが原因で起こる人もいるため)
•炭酸飲料は最低限に抑える
•アルコールを飲み過ぎない(アルコールをやめることで症状が改善する人もいる)
•繊維質は適度にとる(多すぎると逆に悪化するケースもある)
•下痢があればソルビトールや人工甘味料を含む飲食物やチューインガムなどを避ける
•ガスやお腹の張りがある場合は、オート麦の摂取増量を検討する。亜麻仁なども良い。

その他に有用性が高そうな方法のリンク

適度な運動も有効である。
カウンセリングなど心理的介入で改善することもある。
ペパーミントオイルが有効である

薬物治療

鎮痙薬(消化管の痙攣を抑える薬)、下痢止め、抗鬱剤などが用いられる。鎮痙薬でプラセボに比べて腹痛が大きく改善する。改善率はおよそ60%。(レビューの中にあった2つの研究結果を参考までに列記すると次の通り。鎮痙薬58%vsプラセボ46%、RR 1.32; 95% CI 1.12 to 1.55; P < 0.001; NNT = 7、鎮痙薬57% vs プラセボ39% RR 1.49; 95% CI 1.25 to 1.77; P < 0.0001; NNT = 5)コランチル(ジサイクロミン)、セレキノン(トリメブチン)などの鎮痙薬もとても有効であることが示されている。腹痛が有意に改善されている。またメンタルな側面が関与するというところで、抗うつ薬でも腹痛を有意に改善することが示されている(抗鬱薬54%vsプラセボ37%、RR 1.49; 95% CI 1.05 to 2.12; P = 0.03; NNT = 5)総じて症状改善薬の有効性は高いと言える(そうでないと困る)。
出典:Cochrane Database Syst Rev. 2011 Aug 10;(8):CD003460

漢方による対処

鎮痛・鎮痙作用のある生薬(芍薬、甘草など)、抗ストレス作用のある生薬(柴胡、牛黄など)、気を補う生薬(人参、白朮など)、気の巡りを良くする生薬が使用され、代表的な漢方薬としては桂枝加芍薬湯、人参湯、香蘇散、桂枝加芍大黄湯、半夏瀉心湯、小建中湯、大建中湯など症状によるが様々な方剤が使われることがある(便の状態や証によって選択が変わるので、専門の人に相談して決めた方が良い)。これと合わせて、身体を冷やさず温めるように心がけることも大切である。

自分で理解を深めることが大切

過敏性腸症候群を自分で減らすためのガイドブックを読むことが大切。それによって、病院の受療回数が大幅に減るとする研究がある。ある程度自助努力が大切。先日たまたま買い、本稿を書くにあたり参考にした書籍も良かった。便秘の人にはオススメ。Gut 2006 May;55(5):643 

市販薬について

それぞれ症状に対応した下痢止めや便秘薬の使用もあり得るのだが、通常は過敏性腸症候群の可能性があれば受診した方が良い。患者自身が単なる下痢や便秘と捉えて(特に女性の便秘はありがちなので)、気付かずに長期にわたって市販薬で対応している場合には注意が必要である。

昨年、IBSの診断を受けた人が購入できる市販薬が発売されたので1つ紹介しよう。それが上記薬物治療の項目にもあるセレキノン(成分名:トリメブチン)である。セレキノンという薬自体は昔からあり、1988年から過敏性腸症候群に対して適応を取得していた。市販薬でも2015年8月には過敏性腸症候群の適応を取得(市販薬としては初)し、セレキノンSとして発売された。2009年に施行された改正薬事法により、一般用医薬品が広く販売できるようになった影響もある。
セレキノンS
img_cerekinon
作用としては、胃腸に存在するオピオイド受容体に作用して、胃腸の運動を正常化させるが、低用量ではノルアドレナリンを抑制し、アセチルコリンの働きを強めて消化管運動を促進する作用が優位である。高用量では逆にアセチルコリンの働きをおさえ、消化管運動を抑制する作用が強まる。平たくいうと、低容量で消化管運動が活発になり、高用量で消化管運動が抑制される。

OTC薬の場合、その場で医師が診断するわけではないので、過敏性腸症候群ではない方が飲むリスクはある。下痢や便秘の裏に別の疾患が隠れていては問題だからだ。そこで、「過去にIBSの診断を受けたことがある」という条件付で市販されている。

セレキノンSの添付文書では次のように書かれている。「一週間ほどで効能•効果を実感する」。それで、「すぐに効かないの?」と疑問をもたれる方がいるのだが、これは臨床試験データを1週間おきにとっていたため、そう記載されているだけ。実際には、服用後血中濃度のピークを迎えるのは30分前後で、半減期が約2時間。効き目は比較的早く出て急性の下痢に対応できるようにはなっている。一定期間飲み続けないといけないのかというと必ずしもそうではなく症状による。下痢などの症状が起きる前に自覚する「お腹がゴロゴロする感覚」、腹部不快感などの予兆を感じたタイミングで服用すれば良い。

↓ ↓ ↓この記事に共感した、面白かったらこちらをクリック!
dqranking  dqmura

 ご案内

講演、取材についてご相談、お申込み

薬についてのご相談

薬局のお悩みについてご相談

↑トップページに戻る

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

Translate:

アーカイブ

ar

おすすめメディア集

hymkbanner

セールスが苦手だからこそ、出来る!作れる!売り込まないセールス設計とは、お客様から選んでいただける体制を作れればいい。その体制は、あなたのビジネスの「強さ」と「違い」を作り出し、活かすことで構築できる。その構築方法をお伝えしています。

ファーマシストフロンティア

私も連載している人気マガジン。広告によって編集内容が左右される従来の雑誌とは一線を画し、実相を探求したウェブマガジン。必要とされる薬剤師になるための必読書、それが『ファーマシストフロンティア』です。

お問い合わせ

インバウンド003

facebookページ(いいねを押していただけると励みになります!)

PAGE TOP
Translate »