交代勤務と疾病のリスク

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仕事等で昼夜が逆転しているかどうかは、薬の管理において最初に確認する事項の1つである。そもそも、それで服薬タイミングをどうするかを再考する必要があるしホルモンの分泌周期などに影響を及ぼす結果、薬の効き方が変わる可能性もあるためである。時間医療という概念があり、何においても人間の生体リズムに合わせて対処することが大切という考えは浸透しつつある。

交代制の勤務は、多くの疾病を招くことがある。例えば、心血管疾患、糖尿業、肥満、胃潰瘍などの消化器症状、うつ、注意力低下による怪我のリスクの増大などである。警官、消防士、看護師、医師、パイロット、ウェイトレス、トラックやバスの運転手、キャビンアテンダントなど夜間シフトになる職業は数多い。こうした夜間就業がアタリマエになりつつあるが、このようなシフトワークは、ライフスタイルや生体リズムの問題を生ずることがある。

ライフスタイルの問題は明らかで、夜間シフトの人は睡眠障害と睡眠不足に悩まされやすい。人によっては友人や家族との交流が減り、孤独感をおぼえるかもしれない。定期的に運動することも難しいかもしれないし、食事も偏りがちになる。生理的なことはもっと問題である。生体リズム(サーカディアンリズム)を崩すことが、明暗サイクルを鍵とする体内時計を壊していく。サーカディアンリズムは身体がどう機能するかということに関わる。具体的には、心血管系、代謝、消化吸収、免疫系、ホルモンバランスの調整などに関わる。これらが崩れればどうなるかは想像に難くない。

•短期的影響
短期的影響は明らかだ。シフトワーカーでなかったとしても長距離フライト、徹夜、飲み会などの後で似たような体験をしたことがある人はいるだろう。単純に疲労を感じるだけでなく、例えば消化器系の不快感、下痢、便秘、胸やけ
怪我と事故リスクの上昇、不眠、生活の質の低下、なんとなくだるいといったことは起こりうる。

•長期的影響
長期的影響を推し量るのはやや難しい。ただし、いくつかの研究からシフトワークと以下の疾患が関連することが分かっている。

1、心血管疾患
何十年も前から、シフトワークと心臓発作や心臓病の関連はみられていた。ある研究のレビューでは、シフトワークが心血管疾患のリスクを20%前後もあげるとされている。より長期間の夜間シフトを続けるほどリスクがあがるようである。長期間のシフトワークにより脳卒中リスクも上がる。

2、糖尿病とメタボリックシンドローム
シフトワークが糖尿病と関連することを示す研究は沢山ある。例えば、日本人のシフトワーカーにおける研究において、特に16時間シフトで働いていた人においては日中労働者よりも50%も高い糖尿病発症率であった。

高血圧、脂質異常症、高血糖、肥満などの生活習慣病との関連も示されている。これらが心筋梗塞、糖尿病、脳卒中などのリスクファクターであることは言うまでもない。2007年に発表された、700名の医療従事者を4年間追跡した研究があるが、生活習慣病の発症率は日勤シフトよりも夜シフトの人で3倍も高かった。

3、肥満
シフトワークが肥満と関わる理由としていくつか考えられるものがある。食事の偏りと運動不足が問題の一端を担っている側面もあるだろうし、ホルモンバランスも重要であろう。レプチンと呼ばれるホルモンは食欲抑制に大切な役割を果たしている。このホルモンによって、満腹感が得られる。シフトワークによりレプチンの濃度が下がるので、夜勤をする人はより空腹感が出やすく結果としてより食べてしまう。

例えば、健康な10名の大人を対象にサーカディアンリズムをあえて崩すように食事や睡眠の時間をバラバラのリズムにさせた研究がある。わずか10日間で、全員のレプチンが減ったのである。これは食欲を増し、血圧を上げ、睡眠の質を下げる。うち3名は血糖値が上昇し糖尿病予備軍に近いレベルになった。つまりサーカィアンリズムを崩すことが健康に影響を及ぼすには年余を要さないということである。もちろん、こうした小規模な実験で実際の仕事環境を反映することはできないが。

4、うつと気分障害
いくつかの研究で、シフトワーカーがよりうつ病や気分障害にかかりやすいことが分かっている。単純に人と働く時間が違えば社会的孤立感もあるだろう。また、脳内の神経伝達物質にも直接影響を及ぼす面がある。2007年に出版された研究では、昼に働いている人よりも夜勤をしている人において有意にセロトニン濃度が低いことが分かっている。セロトニンは気分を落着かせるのに重要な役割を果たすホルモンである。

5、消化管障害
シフトワークにより消化性潰瘍のリスクが高まることは何十年も前から言われてきたが、一般的な消化器障害(吐き気、気持ち悪さ、下痢、便秘など)や過敏性腸症候群などのリスクが上がるのではないかということもいわれている。2008年に出た研究で、慢性的な胸やけや逆流性食道炎との関連が指摘されている。そういえば看護師をやっている友人は若くして逆流性食道炎を煩っていた。

6、不妊や流産
シフトワークが女性の生殖能力に影響するとする研究もある。例えば、フライトアテンダントに関する研究では、妊娠中に勤務していた人はそうでなかった人よりも2倍流産の確率が高まったそうである。未熟児、低体重児など出産時のリスク増加の他、不妊、生理不順、生理痛の悪化、子宮内膜症リスクにも関連するという説がある。

7、がん
シフトワークががんのリスク上昇に関与するという比較的強固なエビデンスがある。この勤務形態そのものが発がん物質であると言えば言い過ぎだろうか。2つの異なる研究の解析から、夜勤は乳がんのリスクを50%上昇させることが示されており、航空機内で働くパイロットやフライトアテンダントにおいては70%の上昇率であった。また直腸がんや前立腺癌のリスクをあげることも示唆されている。

いまのところ、癌のリスクはおよそ20年とかの長期間のシフトワーク従事によって上がることが分かっている。

リスクについて触れてきたが、そうした勤務形態についていたらどうすれば良いのか。どの程度気にかけていれば良いのか。もちろんリスクを心に留めておくことは大切であるが、仮にシフトワークがいくつかの疾患のリスクファクターだとしても、それはあくまで何十人〜何百人の1人という程度の数値であり、睡眠不足や甘いものの摂り過ぎのリスクなどとそう大きく変わるものでもないと思う。元々健康なのであれば、そのような勤務形態であってもリスクは決して高いというわけではない。

一応対策として考えられることをあげておこう。

•適度な食事と運動
先に触れたように肥満と生活習慣病リスクに関連することが分かっているのであれば、予防すれば良いのである。定期的に運動し、適度に食べ、体重を維持していれば結果も違ってくるだろう。

•睡眠をしっかりとる
睡眠不足のリスクはそれ相応のリスクがある。やはり昼夜逆転した勤務形態だと睡眠効率は下がる。問題の1つとして、日中の光に少し触れるだけでも体が目覚めてしまい眠りづらくなることがある。

従って、睡眠環境を整えることが大切になる。寝室はキッチリと部屋を暗くするとか、朝日への暴露を減らすために夜勤シフトからの帰りの運転中はサングラスをかけるなどという工夫も良い。

•スケジュールを変えてしまう
夜勤シフトを日勤シフトに変えてもらうのは無理だと言うことであれば、逆にそれを一定のリズムにするのも悪くないのかもしれない。あとはシフト時間を短くするとか、仮眠をとるのも良いかもしれない。

最終手段としては、医師にかかるということになろうか。例えば、ベッドに入ったらすぐ眠れるような薬を使うとか。こういう情報を得たからといって交代勤務につく仕事をやめる必要はないが、考えられうるリスクは知っておいても良いだろう。

【参考文献】
Shift work and vascular events: systematic review and meta-analysisBMJ 2012;345:e4800
Scheer, F.A. PNAS, March 17, 2009; vol 106: pp 4453-4458
Sookoian, S. Sleep, 2007; vol 30: pp 1049-1053.
Shift work and cancer BMJ 2009;339:b2653
Shift Work, Jet Lag, and Female Reproduction

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  1. 2016年 1月 27日

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